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昭和八年の中島敦

昭和八年の中島敦_b0081843_2045593.jpg

春日井ひとし『昭和八年の中島敦 昭和八年・文学者のいる風景 その1』(掌山房、二〇一三年八月)を頂戴した。深謝いたします。春日井ひとし氏は『サンパン』の同人のお一人。同じく同人だった矢部登さんの『田端抄』に刺戟を受けたのかどうか、それは分かりかねるものの、やや似通った小冊子のスタイルに自らの執筆への情熱を托されておられる。

その1とあるように《昭和八年に限定しての文学者列伝の一編です。昭和八年の時点に立っての、中島敦とその周辺の様子を描こうというもので》ということでこの年、中島敦が何をしていたのか、かなり詳しく調べて列挙してある。これが大変に面白い。

中島敦は昭和八年に東京帝大の大学院に籍を置いた。森鴎外を研究テーマとする予定だったが、横浜高女への就職が決まり、国語と英語の教師となる。四月には結婚を約束した橋本タカに男子が生まれている。そして伯父の中島斗南を描いた小説「斗南先生」書き上げるのもこの年。

《伯父は狷介にして自恃厚く、峻厳でいて狂躁、父撫山の薫陶を受け幼時から俊才をうたわれたが、まとまった仕事をなさず、職に就かず、妻をめとらず、飄然と旅に出ては大陸に長く留まり、かの地の人士と交わり、国事を憂え東洋の将来を談じた。しかしついに志を得ることなく、世を罵り人を罵って許すことを知らず、周囲に鬱憤をまき散らして、三年前に七十八歳でその生を終えていた。》

本書の冒頭は、その伯父の著作『斗南存藁』(勿堂中島遺著、中島竦編、文求堂書店、一九三二年)および祖父・中島撫山『演孔堂詩文』(中島竦編、私家版、一九三一年)を、それらの編者であるもう一人の伯父・中島竦より依頼されて帝大附属図書館へ寄贈しようとするが、どうも気恥ずかしくて、持参できず、郵便で送りつける、というところから書き起されている。《大学の図書館からは一月二十三日付けの寄贈の礼状が届いた》。これに関しては以下のサイトにも日付についての言及があった。

東京大学創立130周年・総合図書館再建80周年記念特別展示会
-世界から贈られた図書を受け継いで-展示資料解説
http://www.lib.u-tokyo.ac.jp/tenjikai/tenjikai2007/shiryo5.html

《『中島敦全集・第一巻』の冒頭に据えられた「斗南先生」には、「自分の伯父の著書を――それも全然無名の一漢詩客に過ぎなかつた伯父の詩文集を、堂々と図書館へ持込むことについて、多少の恥づかしさを覚えないわけには行かなかつた」と、回想されている。全集の解題では、敦が寄贈したのが「昭和八年一月二十八日」だったと記してあるが、総合図書館に現存する実物に押されている日付を見ると、「一月十四日」である。》(島内景二)

中島敦の父田人(たびと)は撫山こと中島慶太郎の六男であった。撫山は幕末に日本橋の豪商の家に生まれ、亀田鵬斎の子の亀田綾瀬に学んだ。二十九の歳に私塾「演孔堂」を開塾。四十で埼玉の久喜に移住し私塾「幸魂教舎(さきたまきょうしゃ)」を開く。地域教育において功績を残し明治四十四年に歿している。七男三女があった。

斗南は志を得なかったかもしれないが、もう一人の伯父中島竦(しょう)は着実な漢学者としての実りある生涯を終えたようだ。

《同じく漢学者であっても竦伯父は落ちついた学究である。古代の漢字の研究をしながら、漢学塾で支那語と蒙古語を講じていた。白髯を二尺近くも伸ばした風貌は隠者然としているが、甥からは〈お髯の伯父〉と慕われている。それに引き替え斗南伯父の髯は黄色く染まっている。》

村山吉廣,關根茂世『玉振道人詩存』明徳出版社 2012年07月
《中国ならびに日本に於いて前人未到の学問的業績をあげながら、名利には一切かかわらぬ樸学をもって自ら任じた玉振中島竦。世事に通じ、人情を解した寧静寡欲の人品・風格が、歿後72年、簡明な評伝と新発見の詩歌で明かされる。》

竦は古代漢字の研究に先鞭をつけた人物で白川静もその業績を評価しているという。永井荷風の母恒は儒者鷲津毅堂の二女だったが、荷風以上に中島敦には漢学・儒学の血が濃く流れ込んでいたということである。いまさらながら『山月記』の秀逸な文体の遺伝子について納得してしまうのであった。

昭和八年シリーズ、その2は杉本秀太郎だとか、これは楽しみだ。
by sumus_co | 2013-08-23 22:00 | おすすめ本棚
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