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旅行用箱の研究

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ナサリー・ビイ・マックエワオン『先史時代より現代に至る旅行用箱の研究』(イセダ井商店熊谷大次郎、一九三七年一一月一二日)。いかにも珍品である。

《米国のラツゲツジ・アンド・レザーバッグ誌にナサリー・ビイ・マツクエワオン氏が先史時代より現代に到る旅行用箱の歴史と題して一九三六年乃ち昭和十一年一月より本十二年七月迄を十六編に分けて連載されてありました。処々を翻訳致して見ますと私等現業にも一脈通ずる事がある様なので其の全編を翻訳致しました。》

本文ガリ版(神田区駿河台・文精社、この会社は現在も印刷業として営業しているようだ)一五〇頁、写真四十二点を十六頁に貼付けて綴じ込んである。角背の上製布装函入り。

英文の著者名が分からないので著者については検索できなかった(コメント欄でご教示いただきました)。『Luggage and Leather Goods Magazine』、こちらも見つかった限りでは一九七〇年代まで同名雑誌は刊行されていたようだが、それ以上のことは調べていない。イセダ井商店は小林春吉『日本橋總覧』(日本魁新聞社、一九三九年)に掲載されている。名前からすると銀座に現存する「伊勢大商店」との関連を考えたくなるが、詳しいことは分からない。

タイトル通り旅行用箱や鞄の歴史を外観した内容。歴史研究としてはやや浅い(というか先史時代から考察しているので、どうしても浅くなってしまう)ながらいろいろ教えられる記述がちりばめられている。

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例えばトランクの語源について

《「トランク」なる語は「切り離す」(切り取る)といふ意味を表はす古ラテン語の「トルンクス」に由来する、古語方言辞典は、箱(チェスト)を棺(コッフイン)と釈義してゐる。棺中に収めたチエステイツドの意である。》

とか。箱に収めるのはまず死体であったか。またバッグの語源について

《古高独逸語のバルグはバック若しくは皮(ハイド)の意、古愛蘭語のバッギイは包み(束)或は荷物(梱)を意味してゐる》

などと書かれている。

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あるいは出エジプト記第二十五章についての記述。

《彼の神の指示に基いて造られた箱舟は、エジプトの旅行用箱(トラベリングチェスト)に酷似していゐる。『而して汝等、シッチムの箱舟を造れ、その長さ二キウビット半、その高さは一キウビット半たるべし、汝はそを純金にて作れ、内をも外をも。而して汝は金の輪四鋳造りて、その四隅に当つべし。その二を一側に、その二を他側に、次に汝はシッチムの材をもて桶板を作り、此れにも金を張れ、而して後、此の桶板を箱舟に作らるべき側板と竝べて輪にかくべし》

ここで「箱舟」と訳されているのは「櫃」(ark)であるべき。ただしかし、箱舟(Ark)が箱(ark)と似ているのは「なるほど!」と腑に落ちるしだい。

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もうひとつ、著者は日本の旅行用箱については一言も触れていないが、朝鮮の帽子箱には賛辞を惜しまない。

《朝鮮は今では最早、政治的区画ではなくなってゐるが、未だ明らかに一国をなしてゐた時には興味ある工芸史を有してゐた。旅行用箱に於けるその著しい構造は帽子箱(ハットボックス)であった。シカゴ、フィールド博物館の二個の非常に見事な標本は、その製作に費やされた技能、芸術を如実に示してゐる。男子の帽子は朝鮮人にとって正に頭部の覆ひ以上のものであったのである。》

《其故此等二個の特製の箱(ケース)は二人の上流社会の男子の所有に係り、祭儀用の帽子を収めたものであるが、特に朝鮮古代に於ける帽子箱(ハットボックス)の重要性を説明するものである。箱は八角形をなし、直径十八吋、高さ約十吋である。一は黒木で作り、側面及び天辺を真珠貝を用ひた美しき図案で飾ってあり一は濃淡の黄褐色をした竹紐の編細工が被せてあるものである。》

ということでフィールド博物館のホームページからここで述べられている見事なハットボックスの画像を探し出してみた。カッ(갓、笠子帽)が収められたということだろう。
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こちらは『「写真絵はがき」の中の朝鮮民俗』図録より帽子職人の写真。
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朝鮮の帽子箱など
http://blog.daum.net/klgallery/15683278
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by sumus_co | 2013-08-01 21:26 | 古書日録
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