扉野良人氏より『藤井豊写真集 僕、馬 I am a horse』(りいぶる・とふん、二〇一三年六月二一日、書容設計=扉野良人)が届いた。一年以上前から、藤井氏の写真集を作ると聞いていたのが、仕上がったのである。藤井氏が《2011年3月11日、東日本大震災発生一ヶ月後の4月11日より約1ヵ月余りを東北沿岸を歩いて撮った写真集》だそうだ。扉野氏らしいこだわりのうかがえる美しい写真集だ。
震災後一ヶ月というと、生々しい光景が連続するのかと思い勝ちだ。実際、ニュース映像でくり返し見せられたような破壊の生々しさを撮った写真も随所に登場する。するには違いないが、全体のトーンは淡々と、一歩引いたような旅人の、歩かないではいられない切迫感も感じさせながら、静かな日常が写し取られている。日常……、地震と津波と原発崩壊(当然ながら写真には現れないが、現れないことによって一層深いところから脅かされるようでもある)さえも、すでに日常でしかない。そんな凄みを感じさせる写真集になっている。
栞で荻原魚雷、河田拓也の二氏が藤井氏のことを語り、本文には
季村敏夫さんの詩「枯葉を拾う」が挿入されている。
頭蓋 骨片
雨ざらしの壁
潮騒の向こうから
この馬鹿面は
どうみえているのか
藤井氏は旅から帰り四十三本のフィルムを現像したと書いている。36枚なら1500カット以上だ(これが全部ではなかったそうです)。巻末にベタ焼の図版があるが、そこでは、本文の選び抜かれた写真の連続とはひと味違った、写真家の眼の動きが生に感じられる。展覧会ならこの流れを生かせるかもしれないなと思う。
『 僕、馬 I am a HORSE 』りいぶる・とふん 刊行
2013年7月20日 発売開始
http://d.hatena.ne.jp/tobiranorabbit/20130717/1374057098