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生田耕作、清冽の美学某氏より頂戴した雑誌『週刊ダイヤモンド臨時増刊 D STYLE』(ダイヤモンド社、二〇〇〇年四月三〇日)に「孤高の反時代的文学者 生田耕作、清冽の美学」という記事がある。というかこの記事があるのために某氏はこの雑誌をまとめ買いされたそうだ。熱烈生田ファンなのである。 しかしファンならずともそのカッコ良さには唸ってしまう。一度だけご本人を某書店でお見かけしたことがあるが(たぶん八〇年代後半だったと思う)、そのときはピッタリした黒っぽい背広姿で、せっかちそうな立ち居振る舞いも印象に残っている。 本書は歿後の鷹峯の自宅(双蓮居・そうれんぎょ)を紹介しながら、夫人の回想を多く引用し、生田耕作の生活の一端をうかがわせてくれる内容だ。 《「生田はよく『日本男子は着るもののことで思いわずらうなんて恥だと考えていたもんだ』と言ってました。そう言いながら『あいつはもっちゃい(田舎臭い)やつや』なんて、結構男の恰好を気にしていたようです。男の派手な服装は特に嫌っていました。『きみ、なんやその真っ赤な靴下は』なんて、若い客人にずけずけ言ってましたから」》 《書斎では洗いやすいウールの着物、外出には紬と着分けたが、どれも渋い色に限られた。洋服の趣味と同じである。その代わり盛夏には小千谷縮を涼やかに纏った。》 《冬には夫人が杉綾の洋服地で仕立てた角袖(和服用コート)を粋に羽織った。二重回し(英国のインバネス・コートを改良したもので"とんび"とも呼ぶ)を天神さんの骨董市で手に入れたが、ケープがついたりして大仰で目立ちすぎ、結局は着なかったそうである。》 《「毎日六時か七時に起きて、すぐに机に向かうんですが、本を読んだり、古書の繕いをしたりして、なかなか仕事に取りかかりません。『翻訳に取りかかるのは決心がいるんや』と言ってました」 昼食後は夫人の弾く長唄の三味線を聞きながら一時間ほど昼寝をして、午後からは古書店や書画屋を覗いたり、仕事の続きをしたりが生田氏の晩年の日課であった。》 そして生田耕作の好き嫌い。 《ジーンズも『あれは労働着や』と言って、絶対に身につけませんでした。》 《『冷や酒は飲むもんやないと母親に教えられた』言うて、日本酒は必ず燗をして飲みました。》 《辛口の日本酒以外は滅多に飲みません。ウイスキーは『牛追い(カウボーイ)の飲み物や』と言って飲みません。フランス文学の同僚教授がたちがワインの蘊蓄をひけらかしたりすると、『フランス語が満足にできんやつに限ってワインに詳しいんや』と笑っていました。嫌いな食べ物はくさやの干物。それから鯨。『あんな自分の体より大きいものが食えるか』って言うんです》 いや、このコメント、まるで落語に出て来そうなキャラクターではないか。反骨というか偏見の塊といった方がいいかもしれないが、そこがまた生田ファンには堪らない魅力なのであろう。 この時点では生前そのままに残されていた生田耕作旧蔵書は、その後、古書の市場に流れ出たが(ブルトンやバタイユのオトグラフも所蔵していたし、稀覯書も多かったようだ、「生田耕作旧蔵書」で検索するといろいろヒットする)、某氏によれば、現在では書物ばかりでなく、双蓮居そのものも跡形もないという。
by sumus_co
| 2013-05-01 21:04
| 古書日録
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