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二笑亭綺譚

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式場隆三郎『二笑亭綺譚』(昭森社、一九三九年九月五日再版、装幀意匠=芹沢銈介、B版表紙摺=石渡庄一郎)を某氏より御恵投いただいた。多謝。

二笑亭は赤木城吉(仮名、本名は渡辺金蔵)が昭和の初めに建てた(建てていた)不思議な建物である。現在の門前仲町二丁目にあった。式場が昭和十二年に『中央公論』誌上で紹介して注目を浴びた。「郵便配達人シュヴァルの理想宮 Palais Idéal du Facteur Cheval」の日本版(式場も文中でシュヴァルに触れている)といってもいいかもしれないが、境遇や手法はまったく違うし、何より、フランスではオフィシャルサイトがあり、現在も保存公開されていることは、昭和十三年にさっさと取り壊されてしまった二笑亭との最も大きな違いである。

赤城は明治十年一月十日生まれ。父の手ひとつで養育され、東京市麹町区の小学校を卒業。足袋仕立てを業とする赤木家へ奉公し、同家の養女と結婚して婿となった。三十三歳のとき、足袋商から洋品雑貨商に転じた。それも四十四歳で廃業し地主として暮らすようになる。謡、舞踊、茶の湯、書をたしなみ、硯石や篆刻の蒐集もしていた。関東大震災を境に変調が現われた。大正十四年から十五年にかけて世界一周旅行を決行する。同行した長男は横浜から神戸へ向う船中で精神錯乱に陥り旅行を中止したが、城吉は旅を続けたそうだ。世界漫遊から帰った城吉は欧米で得た知識をもとに二笑亭の建築に着手した。十年余りの歳月と十万円くらいの費用が使われたという。

《変屈な所があつても、多趣味で、子供達にかこまれて静かな生活に守られてゐた彼も、この建築に向ふやうになつてからは、すべてのものを放棄したのである。財産も家族も、この建築の前には何ものでもなかつた。生活の荒涼さも、その他のあらゆる障礙も、彼には応へなかつた。二笑亭が完成することがあつたら、それからどんな生活をするつもりだつたか解らない。彼には生活よりも家の形態の方が重大だつた。生活から生れる住居でなく、住居から規定される生活を主張したところに、この建築の最大の特徴がある。》

式場は広大な薔薇園をもつ精神病院を経営し、山下清を有名にした精神科医で文筆家だが、城吉のことは「精神分離症」(精神分裂症)すなわちスキゾフレニー(Schizophrenie)だと断定している。この病気は現在では「統合失調症」と呼ばれ「連合障害(認知障害)」「自閉症(自生思考等)」「精神病状態(幻覚妄想)」など多様な症状を示すそうで、罹患者個々人によって症状も多様。式場は遺伝的な要因を重視して論じているが、現在ではむしろ環境的要因の方が重要だとみなされているらしい。

式場はさらにこんな気になることも書いている。

《精神病者の動作には、破壊的の一面と、保持の一面がある。躁病のやうな感情の発揚性のものは、破壊による快感を味ふことを好む。しかし精神分離症の多くは、蒐集慾と保持慾にかられ易い。彼等は無意味に蒐集し、理由なく物品を守りつづける。あるものは自らの糞尿さへも捨てることを惜む。興奮による弄糞症ではなく、愛着による守糞(蔵糞といふべきか)がしばしばみられる。》

これだとコレクターはみなスキゾということになってしまうが、いつも書いているように普通の人間では普通のことしかできない、普通でないから普通でないことができるというのは当たり前である。しかし何が普通で何が普通でないかというのが、なかなかはっきりしてこないから、難しいとも面白いとも言えるのだろう。

二笑亭は写真で見る限り、そんなにひどくキテレツな建物ではないように思う。ブリツカー賞をもらった建築家の建物の方がよほど風変りだろう。上述したように二笑亭そのものよりも二笑亭を残す余裕のなかった時代の空気の方が気にかかる。

二笑亭の写真は以下のサイトなどで見られる。

ウィンチェスター奇館と二笑亭(2)
http://members2.jcom.home.ne.jp/nishikawaw/nishotei02.html
by sumus_co | 2013-03-19 21:22 | 古書日録
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