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餔糟集

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岡田南涯の漢詩集『餔糟集(ほそうしゅう)』写本(書写年不詳)を入手した。惜しくも双白銅(二百円のことです)ではなかったが、虫食い穴のせいもあってたいした値段ではなかった。雨森正弘の序は文政五年となっているから、版本があるとしたら、その頃だろう。上巻と下巻を一冊に筆写している。

簡単に「http://ci.nii.ac.jp/books/」で検索したところでは大正八年に雨森菊太郎編輯の上下二冊本が刊行されている(江戸時代の版本は確認できず、写本は別に一本発見)。実物を見ていないので何とも言えないが、上述の雨森正弘は岡田南涯の弟子で医者、文政時代には京都の車屋町二条南に住んでいたが(平安人物志)、菊太郎はその後裔だろうか?

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岡田邦彦(一七六二~一八三六)、節叟、士髦、南涯、遵古堂、通称は節蔵、大坂の人。幼少の時に京都にのぼり、岩垣龍溪に師事して経史を学び、講説を業とした。東洞院丸太町南に住み(文化十年版『平安人物志』)、京都高田別院に墓がある。第六子の六蔵は岩垣龍溪の跡を継いで岩垣月洲として同学社の督学となった(明治六年歿)。

巻首に門人としてある三人の内、若狭の今井聖瑞については不明。丹波の植木文劉はやはり医者で雨鼎とも号し菅茶山などとも親交のあった人物。その息子植木環山は「学半館」と称する学問所を作り多くの文人墨客と交わったそうだ。

他にわが国で初めて天然痘の予防ワクチンを開発した小山肆成(文化四年生)は十六歳で岡田南涯に師事、宮廷医を経て烏丸で開業、ジェンナーの牛痘の効果を碓認し、嘉永二年(一八四九)、国産牛痘苗の開発に成功している。もう一人、播州赤穂の村上真輔(天谷)も南涯の弟子であった。また《往年岡田南涯、王陽明伝習録晩年定論ヲ見テ甚感シ候。》(猪飼敬所先生書束集巻六)とあるから、それなりに京都では改革派として影響力を持った人物だったようだ。(以上ググった結果です)

詩もなかなかよろしい。時節柄に合わせて一首引用してみる。

 濁酒枯魚有所期
 小園日々捲帷窺
 賞情如与人相約
 不解春寒花較遅

春はまだか、まだかと酒と肴を用意して、カーテンを開いては小庭のぞく、まるで人と待ち合わせしているみたいだ……花はまだ咲きそうにもないなあ。とにかく酒好きだったことは間違いない。「酒怒」「酒笑」「酒悲」などという連作もある。

全体的には例によって四季折々を謳ったものがほとんど。京や大阪の地名が出て来るものもいくらかある。南涯の個人情報がうかがわれるのは弟の墓に詣でたり、知人を見送った詩のなかに細合半斎や、追悼詩に天龍寺塔頭寿寧禅院象田和尚という名前が見られる程度で、少々物足りない。

面白いのはシラミやノミの詩である。『鴟鵂庵閑話』には象の詩や駱駝の詩や狼の詩について紹介されていたが、多分当時ならばもっとも身近だったはずの生き物を題材にしているわけだ。他にも「釘倒虫」(ボウフラだろうか?)の詩まである。

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下巻の末尾の一首。

 非賈非商住帝畿
 綺羅叢裡一荷衣
 孱妻寧勧梁鴻隠
 多子還遭宗主誹
 鯨飲酒中仙可想
 雞群世上俗難違
 乾坤自在百年夢
 夜向炯霞深處飛

儒者としての身過ぎ世過ぎもなかなか屈託が多いようだ。夢はあっても家庭もある。子供が多い(少なくとも第六子まではいる)。先行きはまったく見えない。酒も飲みたくなるというもの。
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by sumus_co | 2013-03-07 20:59 | 古書日録
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