林蘊蓄斎の文画な日々
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DIPHILOS

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古美術に関連する小説を読んだため、こんな本も買っていたことを思い出した。山崎書店で、とは思うが、値段は忘れた。安かったのは間違いない。Edmond Pottier『DIPHILOS et les Modeleurs de Terres Cuites Grecques』(HENRI LAURENS, EDITEUR, 1909)

ディフィロスはギリシャ紀元前から作られてきた小型の素焼き人形の作者。その素焼き人形を日本ではタナグラ人形(タナグラで出土したことから)という名前で呼ぶことが普通のようだ。そのなかでもミリナなどで出土し「DIPHILOS」と署名が入っている作品をディフィロス作としているらしい。ルーブル美術館に数多く所蔵されており、この本もルーブル美術館の鑑賞ガイドとして書かれたもの。

DIPHILOS
http://cartelfr.louvre.fr/cartelfr/visite?srv=car_not_frame&idNotice=8407

Guide de visite : Diphilos Musée du Louvre
http://www.insecula.com/contact/A007442.html

うかつながらルーブルには何度か足を運んでいるが、ディフィロスを見たという記憶がない。ギリシャ彫刻は名品がたくさんあるのでつい通り過ぎたのだろうか、何であれ、知らない物は目前にあっても見えないこともある、単に無知だっただけかもしれない。次の機会に出掛けてみようかとも思うが、とにかくルーブルは人が多くて入場するにも行列を作らなければならない。億劫である。入ってしまえば、ディフィロスの展示場などはきっと人も少ないに違いないのだけど。

ただ、イスタンブルの博物館では素晴らしいタナグラ人形を見た。ひっそりと大きなガラス戸棚に並んでいたのを今もまざまざと思い出すことができる。誰も来場者のいない階段の近くの寒々しい部屋だった(十二月に訪れたので寒かっただけかもしれないが)。天使の人形がみごとだった。この本にもいくつか出ているけれども、もっと良かったような気がする。

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この本が安かったのはびっしりと全頁にわたって書き込みがあるためだった。旧蔵者はこれを読破したということになる。タイトルページの上部に次のような記名があった。

 No 80. K.Tanaka[判読しにくいが、おそらく]
 Le 30, Avril 25
 à Paris,

大正十四年の四月に推定タナカ氏はパリでこの本を買った。おそらく西洋古美術の愛好家だったか、または研究者か美術商だった可能性もある。参考文献の頁に自ら追加資料を記入しているのだ。本文最終頁(参考文献の前の頁)には《mon 33/ 4,30. 父会社を辞せる日ノ夜 12時半読了》とある。「33」を仮に昭和八年と考えると、購入してから八年経っている。

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どうして美術商だった可能性があると思ったかと言えば、最終頁にこんなハンコがあったからである。

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「MIKAZUKI」は石黒孝次郎(石黒忠悳の孫)が昭和二十二年に創業した株式会社三日月であろう。一般にはレストラン・クレッセントの方が知られているかもしれないが、東京タワーの近くにあるその建物はザ・クレッセント・ハウスと呼ばれる立派な洋館だ(クレッセントはクロワッサン、三日月)。

レストランの方は貧生にはお呼びでないが、古美術店の方は(むろんお呼びでないけれども)学生時代に三日月と懇意にしておられた西洋美術史の某教授に連れられて何人かで見学させてもらったことがある。このときのことも不思議とよく覚えている。展示スペースは案外と狭かったような気もするが(一流店は倉庫が広い)、西洋やオリエントの陶芸はもちろんのことペルシャのミニアチュールなども並んでいた。むろんそれ以来足を踏み入れていないことは言うまでもない。
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by sumus_co | 2013-02-25 20:55 | 古書日録
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