林蘊蓄斎の文画な日々
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鴟鵂庵閑話

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遅まきながら富士川英郎を読んでいる。帰郷前に『菅茶山』(筑摩書房、一九八一年四月一〇日)、帰郷中にこの『鴟鵂庵閑話』(筑摩書房、一九七七年七月五日)を読了した。とくに後者はじつに面白かった。閑話というだけに、真面目に論じるというよりは軽く斜めに些細な話題を拾って江戸時代後期の漢詩人たちの世界を彷彿とさせる。その語り口がまた気取らずに淡々としていていいのだ。

『黄葉夕陽村舎詩』が江戸時代に最も売れ行きの良かった詩集のひとつで、類似したタイトルの『黄葉夕陽村舎詩集』(じつは『風壯詩集』)や『黄葉夕陽村舎紀行』(じつは河崎敬軒の『キボウ日記』)などという書物が刊行された話だとか、広瀬旭荘の『遠思楼詩鈔』の出版経緯(金銭面を中心とした)だとか、漢字遊びの詩だとか、和歌や俳句を漢詩に詠み直すことについてだとか、ユーモア詩とか、怪奇詩とか、象の詩や駱駝の詩や狼の詩だとか、儒者の寿命だとか、病志だとか、頼山陽の病歴だとか、とにかくいずれも興味尽きない内容である。

「儒者の寿命」は百人ほど例をとって、その文人たちが概して長命だったことを説いている。小野湖山(97)、井上四明(90)を筆頭として八十代、七十代は当たり前、六十代が一番多く、五十代だと早死にの感さえある。頼山陽(53)、田能村竹田(59)、伊沢蘭軒(53)、渋江抽斎(54)…。早世は斎藤竹堂(38)、菅恥庵(33)。恥庵は菅茶山(80)の末弟である。徳川時代の日本人の平均寿命ということとなると話は別だが、知識階級に限れば、その寿命は現代と驚くほどの差はなかった。むろん、例えば頼山陽は結核が原因で死亡したので、もし今日ならば、もっと長生きしたことは間違いないだろう。

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『鴟鵂庵閑話』に挟まれていた新聞切り抜き。『海燕』(福武書店)誌上で「菅茶山」の連載をしていると語っているが、これは一九九〇年に上下二巻で福武書店より上梓されることになる。

《茶山の晩年の日記の写しをとってもらって、その日記や茶山の詩を主な材料にして書いています。草体のくずし字の日記を読み解くのは苦労だが、その中に出てくる人物のことなど調べながら書くのはなかなか楽しいですよ。》

上の筑摩版『菅茶山』は、まあ、福武版の前座ということだろう。こちらも鴎外の史伝などとは違った平明な文体で難なく読ませてくれる。

鴟鵂(しきゅう)とは聞き慣れない単語だが、著者は『ちくま』連載中に多くの人から何のことですかと尋ねられたと言い、それはミミズクを意味するとあとがきで断っている。鎌倉山ノ内の自宅は近辺の山からミミズクの鳴き声が聞こえるので書斎を鴟鵂庵と名付けた(上の切り抜き記事にも同じ説明が見えている)。

調べてみると「鴟鵂」という語は早く『荘子』外篇の「秋水」に出ている。原文は例によって矛盾を駆使した論理が展開されているが、そこにこういう一節がある。

《騏驥驊騮,一日而馳千里,捕鼠不如狸狌,言殊技也;鴟鵂夜撮蚤,察毫末,晝出瞋目而不見丘山,言殊性也》

これでは「なんのこっちゃ?」なので和訳を引いておく。

《騏驥(きき・古代の名馬)や驊騮(かりゅう・同)の駿馬は一日に千里の道も走破するが、ねずみを捕らえることでは野猫やいたちに及ばない。それは物それぞれに違った技能があることを物語っている。ふくろうは夜中にのみを捕らえて細い毛先も見分けるが、昼間に出てくるといくら目を見張っても、大きな山も見えない。それは物それぞれに違った性質があることを物語っている。》(荘子全訳

なおフクロウとミミズクは分類上は同じフクロウ目フクロウ科に属するそうだ。

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  ***

TVの影響力は大きい。『ビブリア古書堂の事件手帖』で『晩年』が放送されたため、留守中のアクセス数を見ると、記事ランキングでも明らかなように下記投稿がトップになっていた。

太宰治『晩年』
http://sumus.exblog.jp/7722848/
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by sumus_co | 2013-02-23 20:47 | 古書日録
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