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らぷそでい・いん・大阪

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ある方より『大阪新聞』(一九八六年)に連載された石濱恒夫「らぷそでい・いん・大阪」から喫茶店に関する記事のコピーが送られてきた。これは嬉しい。連載第一回は「創元」。

《御堂筋なんばの東がわ、現在は千日前大通りとシネマビル南街会館とのあいだ、銀行のビルがいくつも目白押しに並んでいるが、その中央ややなんば寄りのところ、いまの辻クッキングなんば校のあたりだったろうか。》

《表は書棚にぎっしりと新刊本がつまった創元書房であり、奥が木製の黒いテーブルセットがいつつばかりのちいさな喫茶室で、店をでるとすぐ歩道のむかいは、地下鉄なんば駅への出入りの昇降口だった。さきごろ亡くなった北大阪十三の詩人、清水正一も若い日に常連であったらしい。昭和二十三、四年ごろのオーサカ詩人や画家、ジャーナリストの溜(たま)り場は、難波新地三番町のこの店であり、お露さんと呼ぶ品のよい小母さんと、少女時代の竹久恵子をしのばせる女店員がひとり、堺に住んでいた先輩詩人の安西冬衛とも最初に出あったとも、遺著になったエッセイ集犬は詩人を裏切らない、の文中に述べている。》

清水正一『犬は詩人を裏切らない』(手鞠文庫、一九八二年)については以前触れた。連載の右下に関連した囲み記事があり、そちらには宇井無愁への短いインタビューが載っている。

《「なつかしい話ですね」と、東京に住む作家・宇井無愁(うい・むしゅう)さん(七七)。「創元には何回か行きました。藤沢桓夫さんを中心にミナミの方の店で、私などとても常連とは…」》《「カストリ雑誌など戦後の雑誌発刊は東京より大阪の方が盛んでキタの店が連絡場所となった。源氏鶏太、長谷川幸延、京都伸夫さんらが集り"在阪作家倶楽部"と称した」》《そのキタの店の名はーー「うーむ、思いだせない」》

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第四回には湯川弘文社や三島書房が登場している。

《同居していた従兄藤沢桓夫のすすめで、住吉大社裏に移っていた湯川弘文社が、出版しはじめた少年雑誌《新少年》を手伝って、表裏の表紙絵からカット、さし絵、ぜんぶひとりで描いた。いいや、もうひとり、年少の医学生だという手塚治虫が、連載マンガを載せている。》

《また、松屋町で出版をはじめた三島書房の新講談叢書を、わたしはペンネームで、長沖一、吉田留三郎、沢野久雄らと、一冊ずつ書いている。》

《そんなとき、三島書房に勤めていたおなじく復員青年の、吉田定一からーー「あの喫茶店、織田作がよう来よんね」と教えられたのが"コンドル"だった。御堂筋の道頓堀橋の東南袂、現在は娘さん夫婦がやっていて、名まえもリブリバと変っている。》

第五回。織田作之助の長姉竹中タツから藤沢桓夫にかかってきた電話を取り次いだ石濱は織田作が死んだことを知る。

《そのまますぐ道頓堀の喫茶店"コンドル"へ出かけた。あんのじょう、三島書房に勤める復員青年、吉田定一がそこにいた。彼は織田作の文学に傾倒していて、自分の書いた小説を彼に読んでもらいたくて、マダムに預けていたりしたが、死んだよ、というとボロボロと大粒の涙をこぼして泣きだし、ついて来てくれへんか、と頼んだ。天下茶屋あたりの、松通りにあるアパートに、やはりミナミの"フランス・バー"で働いている孔雀さんという女性に、教えてやらんならん、というのだ。》

《そう、戦後の焼跡のミナミで、いちばん早くできた喫茶店だといわれる"コンドル"は、まだ木造の平屋であって、夜は店の周囲に竹のヨシズをめぐらせたりしていたものだ。》

《"コンドル"が二階建てになると、マダムから、吉田や西原らとその階上を、文化サロンとして使わないかと相談をうけた。そして道頓堀文化サロン、セゾン(季節)、が誕生して、その看板も油絵具でわたしが描いた。》

西原は三島書房に勤めていた西原寛治。第八回にはルルが登場している。

《法善寺裏の喫茶店"ルル"は、道頓堀橋の東南袂の例の"コンドル"や難波精華小学校裏の"ミドリ"や、法善寺境内の"ハワイアン"……などにつづいて、昭和二十二年の二月開店であって、難波御堂筋の"創元"からの流れをひく、詩人たちのたまり場だった。
 現在の大阪球場、もとは難波御蔵跡の専売局煙草工場の被爆跡から拾ってきた煉瓦で、壁の一部や床を敷きつめた細長い、ウナギの寝床のようなちいさな店であり、最初、国民服姿の詩人安西冬衛が、"創元"の文学的な雰囲気の群れからの、自分ひとりのひそやかな安息所として、奥の小部屋で原稿を書いたいりしていたが、黒トンビにステッキの詩人小野十三郎が嗅(か)ぎつけて、当然のように女流詩人の港野喜代子たちの姿もみうけられ、大阪文学学校の開校は昭和二十九年であるらしいが、その後もずっと長く、三十年以上も詩人たちの巣であったといえるだろう。》

石濱が挙げるルルに通った人々は、浅野孟府、榎本冬一郎、民芸の俳優たち、田中克己、竹中郁、坂本遼、田木繁、井上靖ら。そしてここで再びコンドルの話題に戻り、こんな自慢話を披露している。

《"コンドル"のその二階の改装された四周の壁に、油絵でいくぶんシュール・レアリズム的な大壁画を描いたりした。その制作中を、それぞれ一時間あまり、珈琲を飲みながら眺めていたのは、吉原治良と、それから来阪した川端康成のふたり。吉原さんは、のちに出会うたびに、具体(美術)にはいりませんか、と誘ってくれていた。いまふうにいえば、ナウイ壁画だっただろう。》

戦後の一時期(いや、その後も長らく)、喫茶店が特別な「場所」だったことがよく分る回想である。
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by sumus_co | 2013-02-10 21:16 | 喫茶店の時代
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