林蘊蓄斎の文画な日々
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本、それは一本の木の死である

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ジャン=ミッシェル・フォロン『FOLON LA MORT D'UN ARBRE 木は死んだ』(毎日コミュニケーションズ、一九七四年)。オリジナルは一九七三年にイタリアのアリス・エディションズから出版された。元版および異版については「フォロニアム」というマン・レイ・イストならぬフォロニスト(フランス語ならフォロニアン)氏が運営しているブログに詳しい(http://folonium.exblog.jp/929522/)。

フォロニアムの一番最初の投稿記事を読むと、フォロンのデビューはジャン・ジャック・ポヴェールの画廊であり、ポヴェールが刊行していた雑誌『ビザール』だったという。トポールだけでなくフォロンもポヴェールがそのスタート時点で関わっていたというのは新鮮な驚きだ。

もう一つ、教えられたのはフォロンの二度目の妻がパオラ・ギリンゲッリだったということ。フォロンがモランディについていい文章を書いている理由が分った。パオラの父ジーノ・ギリンゲッリはモランディのとくに親しい友人だった。

個人的には一九八五年に日本で行われた回顧展が今でも脳裏に残っているが、それ以前、一九八〇年にエクス・アン・プロヴァンスの画廊でたまたま出会ったフォロンのささやかな個展が印象深い。セザンヌのアトリエを訪ねた後だったか前だったか。版画と水彩が二十点も並んでいなかった。画廊が何軒か集まった露地のような、ただし少々ハイソな雰囲気の一角で、向かいのやや大きな画廊ではワイズバッシュ展をやっていた。

本文扉に《本、それは一本の木の死である/セント・ジョン・パース》とある。セント・ジョン・パースと英語読みされてしまったサンジョン・ペルス(SAINT-JOHN PERSE)はノーベル文学賞も受賞したフランスの詩人。外務省の役人でもあったペルスは一九二一年から一九四〇年の間に政務次官にまで駆け上ったが、その間には本を書かないばかりか旧著の重版も許さなかった。なぜ本を出さないのかと問われてこう答えたという伝説があるそうだ。ペルスの本名はレジェ(Alexis Léger)である(R. MELTZ, ALEXIS LÉGER DIT SAINT-JOHN PERSE, Flammarion, 2008)

 Un livre, dit Léger, c'est la mort d'un arbre.

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フォロンは「まえがき」で自分に影響を与えた画家たちや自分の制作についてザックバランに語っている。

《わたしはだれの影響をうけたか。だれかがわたしに影響を与えたということはできない。すべてのものの影響を受けたのだから。わたしはあらゆることが影響だと思う。人間は自分が出会ったすべてのことに判断をくだす。白い紙のうえには黒い線を一本引けば十分だと思う。》

と書きながらエンソール(アンソール)、マグリット、ベケット、キャロル、キートン、カルチェ・ブレッソン、スタインベルグ、クレー、岩の彫刻、エルンストなど忘れられない作家たちを並べている。

《デッサンするとは街を歩き、人生を見つめることだ。レスネが初めてニューヨークに行ったとき、彼は毎朝早く起き、一日中街を歩いた。そして出発の前夜、自分の靴を見たらすり減っていた。彼は靴をニューヨークに残して帰った。芸術家とは靴をすり減らすようにできているとわたしは思う。》

レスネはアラン・レスネ。これに続けて、マスメディアとイラストレーションの関係を考察して雑誌の仕事やポスターの仕事について心構えを語り、そして最後には水彩画の技法を明かしてくれている。

《わたしが自由の感情を最も強く感ずるのは水彩によってである。紙をとる。紙の表面を水で覆う。そこに少しばかりの色を加える。それからほかの色を。色はたがいにまじり合う。まるで生き物のように。わたしの眼の下でいろいろな映像が生まれてくる。そしてこれらの実在があなたの実在になってゆく。その説明はできないけれど。》
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by sumus_co | 2013-02-02 21:33 | 古書日録
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