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零録2 池大雅

零録2 池大雅_b0081843_209745.jpg

池大雅「楽志論図巻」(寛延三年1750)部分。後漢の仲長統の著書『楽志論』を主題にして乱世を慨嘆し平和を楽しむ隠者の生活を描いている。

『零録』に池大雅の逸話が出ているので引用しておく(一文字アキは読みやすいように引用者が施したもの)。

《八田楽菴とて医師あり 管絃を好ミ四辻家の門に入る 又画もかけり 京に遊ひし時 大雅堂を訪ひしに 坐中書籍をとりひろけ坐するに所なけれは 左右にかきやり坐し給へと云ハれしゆへ 唐本をかやうに手荒くしたまへは損し申すへくと云ひしに 我ら子孫もなけれは譲る者もなし 生涯に見尽くせハ入用はなしと云はれたり 其洒落なる思ふへしと話されたり》

池大雅の住居と言えば、思い出した。伴蒿蹊『近世畸人伝』(岩波文庫、一九八七年十四刷)に合奏する池大雅と妻玉瀾の図が出ている。

零録2 池大雅_b0081843_2029725.jpg

《坐中書籍をとりひろけ坐するに所》なしの書斎だったわけだが、なんだか夫婦で楽しげにやっているねえ。また執着のなさについては『近世畸人伝』にも次のような逸話が出ている

《一書林の僕、主人の金を用て遊興し、放逐にあひ、他国へ行んとする時、道人のもとへ来たりて別を告ぐ。道人甚憐み、我主人に侘ん、といひて、持る所の書画調度を売て、その金をつくのひ、帰参せしめたり。中にも奇なるは、石刻の十三経を得んとて、年比心にかけしかば、たくはふる所の銭百貫に及べりしに、書賈なほ售ず。其銭を祇園の社に奉納す。》

使い込みで書店をクビになった店員のために書画調度品を売って金を作ってやるというのも、なかなか普通の人間にできることではないだろうし、その書店員との日頃の付き合いの深さも感じさせる。石刻の十三経を買うために貯金したが、売ってくれないので貯めたお金は祇園さんに寄付してしまった。これもまた非凡であろう。

小杉未醒『大雅堂』(アルス、一九二六年一月三日)より「大雅堂肖像(作者不詳)」と「大雅堂住居真景(月峰筆と云ふ)」。

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零録2 池大雅_b0081843_203473.jpg

これが今の円山公園の南方になるとはとても思えないが、『大雅堂』には大雅の弟子だった木村蒹葭堂の追憶記が引用されており、そこに大雅の住居の様子が記されている

《真葛ケ原の南の一端にありて、入口六畳、書斎四畳半の只纔か二室のみの小さな構にて、畳は足の引かゝる程ところどころ破れ、障子の窓に雨風に破れたるまゝつくろひもせねば、そのむさくろしき事譬ふるに言葉もなし》

《書斎には白紙唐紙の類を始めとして、礬沙引きたる美濃紙、絹地の一片など、膝を容るゝ所なきまで散り乱れ、一方には画きかけたる山水の画幅あるかと思へば、一方には花鳥の彩色を施さんとしたるものもあり、其の外、書に関したる帖、篆刻に関したる書など、順序次第もなくあたりに散乱れ、おのれの座るべき所も無き程の有様なりし》

零録2 池大雅_b0081843_2104211.jpg

野呂介石「池大雅住居図」(寛政四年1792)。題詞にいわく

《居洛東祇園之地盖祇園女御之古迹云屋前後
 皆菜圃菜圃之外四環皆堵一面開門四環間縁
 堵為家他人居之霞樵所
 居之家甚矮陋茨以麦稈
 屋上葛〓蔦生垂下施入
 戸中戸扇不得〓焉屋之
 左纔施厚席其中[霞樵]居其
 中右間施六席妻玉蘭居
 之其中間為厨房》

ここで大雅は歿年までを過ごしたようだ。木村蒹葭堂はこう述べている。

《先生は猶利欲の途に迷はずして、着々として画法に熱中し、遂にその陋巷の一室に逝去せられしは、唐土の顔回にも増してゆかしき事と謂つべし。》

利欲に迷わずというか、上のような金の使い方は、迷う迷わないのレベルをとっくに越えているだろう。

【追記】
森銑三『増補新橋の狸先生 私の近世畸人伝』(岩波文庫、一九九九年)に収められている「池大雅」によれば、蒹葭堂の「追憶記」は疑わしい著述だそうだ。

《それは、大雅の真葛原に住したのが、その晩年の十年足らずの間だったことは、すでに叙したる如くである。二十余歳の頃から同所に居ついていたのではない。「入口六畳、書斎四畳半の只纔か二室のみの小さな構にて」としてあるのも、介石や月峰の描いている草堂の図と異る。その外一体に文章に古色が乏しく、大雅を大雅堂と呼び、里恭を権太夫大人[ごんたいふうし]、権大人、里恭先生などと呼んでいるのも何かわざとらしい。

《右の蒹葭堂の「追憶記」というものは。ただ蒹葭堂の編んだ年譜の寛延元年二十六歳の条に、「当年蒹葭堂十三歳、初めて面会す」とあるのに暗示を得て贋作したのであろう。しかし割合に新しい明治になってからの贋作であろうかと考えられる。

この「池大雅」には数々の珍しいドキュメントが拾い集められており、さすが森銑三と思わされる。



by sumus_co | 2013-01-28 21:29 | 古書日録
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