Makinoさまから《亀はまれにキュッと鳴くだけで、4匹ぐらい居ても、ちっともうるさくないです。》というコメントを頂戴したので思い出した。五円玉十九枚と組紐などでできた蓑亀(みのがめ)。老母の箪笥の奥深くにしまい込まれていた。どうやら伝統的な(?)手芸の一種のようである(
五円玉手芸の親子亀)。
亀鳴くについては
田中美穂さんの新刊『亀のひみつ』
http://sumus.exblog.jp/18878017/
から鳴き声ではなく擦過音(さっかおん)だという説を引用したことがある。そのときに《『俳諧歳時記』(享和三年、一八〇三年)にも収められているということだが》と書いた。その享和三年『俳諧歳時記』を先頃入手した(上巻だけなので奥付がない)。滝沢馬琴が編輯し、初めて「俳諧歳時記」を表題とした書物だそうだ。
「二月」の部にたしかに《亀鳴 夫木集 亀も田にしも月のあかき夜にハ鳴ものなり》とある。夫木集は鎌倉後期の私撰和歌集(藤原長清撰)で延慶三年(1310)ごろの成立。ということは藤原為家の「亀のなくなり」はここに収録されているのだろうと思って検索してみると、やはりそうだった。
かはこしの-みちのなかちの-ゆふやみに-なにそときけは-かめそなくなる 為家
他にもおめでたいだけに亀の歌はかなりたくさんあった。蓑亀や亀島(亀が神仙山を背負う伝説)といったテーマも頻出。ごく一部を引用してみる(
『夫木抄(夫木和歌抄)』日文研データベースより)。
かめのをの-やまのいはねの-みやつくり-うこきなきよの-ためしなるへし 為家
わたつみの-そこにねささぬ-うきしまは-かめのせなかに-つめるちりかも 能宣
やすかはの-みなそこみえて-いるかめの-よろつよしりて-あそふをそみる 兼盛
かはのせに-うきたるかめの-さしくしは-みしよなからの-しるしなりけり 光俊
よつのうみ-をさまれるよは-おとにきく-かめのみやまも-なみそこすらむ 俊成
わかこひは-かめのうへなる-やまなれや-なをのみききて-みるときもなし 基家
なお、宮地伝三郎『俳風動物記』(岩波新書、一九八四年)では「田螺(タニシ)鳴く」が考察されているというから、いずれ読んでみたいもの。