『第29回銀座古書の市 美術書画・書籍コレクション』(松屋銀座、二〇一三年一月)の目録を楽しむ。さすがに楽しむだけに終わりそう。注文する勇気というかインフレ傾向がいささかもないのは残念なり。目に留まったのはヘレンケラーの写真。昭和十二年に来日したときのものだそうだ。キャプテン・カネコ宛。安土堂書店の出品。
どうして目が止まったかというと、先日こんなブログの記述を読んでいたためだった。ケラー女史の演説が見事すぎるため、実際にはいつも横にいる秘書のポリー・トムソン夫人が創作しているのではないかという疑惑が生じていた。ヘレン・ケラー人形説!
《先輩記者たちは、「目も見えず、耳も聞こえないヘレン・ケラーにあんな立派な講演が出来るはずはない。多分、横にいる女性が創作しているのだろう」と言うのです。》(
http://zenmz.exblog.jp/12774240/)
その話をこの写真を見て思い出した。むろん、そんなはずはなかったのだが。
それから古書日月堂さんにマン・レイのハノーヴァー・ギャラリーでのカタログが出ていた。エイゼンシュタインの衣笠貞之助宛の手記と並んでいる。藤田嗣治の書簡、吉田健一の書簡も同じ頁にある。チャペックの追悼展の図録も。この頁は素敵だ。他にえびな書店のブルトンの書簡とか野見山暁治の油彩画(一九五〇年代)もお金があれば欲しいもの。
さんちか古書大即売会の目録も届いた。トンカ書店さんが詩集や写真集をたくさん並べている。注文できそうなもの一冊見つける。いつも頂戴している『中野書店古本倶楽部』259号にも「オッ」と声を出したものが一点あった。これは買えないわけではないが、ヨイショが必要だ。迷いに迷う。迷っているうちに売れてしまうかもしれない。いや、こんなもの誰も買わないだろうなどと思うものの、これだけは分らないのだ。
『日本古書通信』1002号(日本古書通信社、二〇一三年一月一五日)にその中野書店の中野智之さんが西村陽吉『緑の旗』(作歌荘、一九三九年三月一日)について書いておられる。西村は東雲堂主人、歌人。
表現急行さんのブログで名前を覚えていたので興味が湧いた。中野さんは二十代半ば初めての宅買いが西村家だったという。
《緊張と興奮の初体験。駆け出しとはいえ、さすがに東雲堂のことはうっすら知っていました。それにこの西村家、実は長嶋茂雄夫人、亜希子さんのご実家でもありました。これは後で知ったこと。古書とは関わりのないことではありますが。
さて、昼下がりの某高級住宅地の高台、日当たりの良いお家です。むろん西村陽吉氏はすでに没しており、いらしたのは息子さん。この方も出版のお仕事をなさっていました。今回は部屋の整理のため偶々連絡されたご様子。せっかくなのでお父さんの話に水を向けると、戦災で昔の本はぜんぶなくなっちゃったと仰る。いちあくのすな…、しゃっこう…。ほんの少し、すこーしだけ期待をしていたのですが、残念。》
『緑の旗』に収められている最初と最後の歌を中野さんが引用しておられるので孫引きしておく。
緑の旗、五月は一斉に新しい緑の旗を掲げる 私は自然のデモに敬礼する
永遠のたつたひとときのいまにゐて眼をあいて見るあたらしい緑