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江戸繁昌記その他

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今年の古本買い初めは……あ、いや、これじゃなかった。二日にブに出掛けていたのだ。しかし、古本らしい古本は本日届いたこの二冊。寺門静軒『江戸繁昌記初篇』(天保三年、一八三二)と『繁昌後記初篇』(刊年等不詳)。

中島棕隠軒『都繁昌記』(天保八年)の序文を読んで『江戸繁昌記』に興味がわいた。東洋文庫で活字になっているが、やはり和本で入手したいと手頃なものを探していてひっかかったもの。全五冊の初編だけ、および『繁昌後記初篇』(こちらは初編のみらしい)なので安かった。

まだ読んでいないが、序文のこんな文言は悪くない。

《但雖文拙雖事鄙偶存好事家之手得証江戸三百年于今之繁華之一二乎于百年後則足矣若夫所取諸今日或使読者亦笑以遣其悶於無聊中也耳嗟斯無用之人而録斯無用之事豈不亦太平世繁昌中之民耶》

「無用之人而録斯無用之事」というのはわざわざ宣言するまでもない、それこそ無用の謙遜とも取れるが、やはりここがあらゆる文筆家に共通のスタート地点ではないかと思う。

早稲田大学 古典籍総合データベース 江戸繁昌記

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昨秋、成島柳北『柳橋新誌』(特選名著複刻全集近代文学館、一九八一年二刷。元版は明治七年。執筆は初編安政六年、二編明治四年)がある目録に五百円で出ていた。これまでも何度も見かけていたのだが、興味が無かったのでスルーしていた。今回はやはり『都繁昌記』とのつながりで注文してみたら、届いた次の日に某書店の百円コーナーで見つけてしまった。ショックだったなあ……。

《仙史固自以為無用之書而世之読之者亦必以為無用之書則謂之一大無用之書》(二編序)

大島堯田の序文に仙史(成島柳北)がこう言ったと出ているわけだが、一大無用之書はいいとして、読んでみるとこれがちっとも面白くない。どうして名著複刻に選ばれているのか疑いたくなるほどである。文章は上手いとは思うが、また面白さとは別物。柳北は妙にエリートすぎるのだろうか。

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この『柳橋新誌』に関して内田魯庵『読書放浪』(書物展望社、一九三三年四月三日)にこんなことが書かれている。「銀座繁昌記」。

《江戸時代からの古い暖簾では山城屋政吉といふのがあつた。之も西側の銀座二丁目のタシカ三枝小売部の処に『江戸名所図会』にあるやうな古い行灯看板を出してゐた。『東京新繁昌記』[服部誠一、明治七年]の出版人であるし、本屋としても毛色の変つた男であつたから、矢張り銀座人物伝の中に加へねばならない一人である。》

《『東京新繁昌記』は洛陽の紙価を高からしめたも大袈裟だが、当時の人気を沸騰さした当り作だつた。此の旨い汁をシタタカ満喫した山城屋は矢継早に二度の膏味に飽かうとして当時の操觚界の独参湯なる成島柳北の『柳橋新誌』を上梓した。果然読者界の人気は『新繁昌記』以上に湧いて山城屋はホクホク者で土蔵の三つ四つも建増しする懐ろ勘定をしてゐた処が、柳北の洒落な麗筆が祟をして、出版幾何も無く風俗上の罪に問はれて禁止された。》

《が、山城屋稲田政吉は其の頃の商人としては四角な難しい字も読み、後に府会議員となつて府政に与かつた程の口利きで、黙つて泣寝入する男では無かつた。其の頃地獄の門を潜るより恐ろしがられた役所へ大胆に出頭して、お上の厳命とならば禁止は拠ろないが、摺上つて製本までしたものを、(其の頃は禁止されても押へられなかつたと見え)此の侭紙屑として了つては商売は立行きませぬ。何とか特別の御穿議をと哀訴した。其の頃は今より出版に理解も同情もあつたと見え、評議の末に増刷は罷成らぬが残本は寛大に見ると許された。稲田は百拝千拝、恩を謝して帰ると直ぐ、『柳橋新誌』禁止に就き残本限り絶版と、筆太に認めた立看板を立てた。さア売れるとも、売れるとも、何遍追摺しても製本が間に合はぬほど売れ、其の頃としては今日の円本の数万部にも匹敵する何千冊が瞬く間に売切れて了つた。あの頃は随分ノンキでしたと、後に稲田が太ツ腹を抱へての憶出の笑ひ咄であつた。》

ベストセラーにありそうな裏話である。魯庵によれば、当時は政治上の発禁ばかりで風俗上の罪に問われるものはほとんどなかったそうだ。実際、問題になるほどの描写は見当たらない。あるいはそれもまた言論取締法の「讒謗律」や「新聞紙条例」を批判した柳北に対する政治的な判断だったのかもしれない。
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by sumus_co | 2013-01-06 20:41 | 古書日録
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