林蘊蓄斎の文画な日々
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伊勢正義 香港の近況

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『週刊朝日』新年特別号(朝日新聞社、一九四四年一月二日)。最近注目している画家・伊勢正義の執筆した記事および挿絵があったので求めた(ワンコイン=百円玉の方)。伊勢は九龍の城門における戦争記録画を描くために派遣されていたようだ。香港は日本軍により敗戦までの三年八ヶ月間占領されていた。

裏町の露天商の紹介からはじめ、仕事の合間にインド人にモデルを頼んでチャイをごちそうになったり、ビールをごちそうしたりした、というのんびりした記述がつづく。

《甦つた香港の街は、秩序と清潔と治安が完全であつて、住民の明朗な感じが、軍政下にあるとは思はれないほど平和である。》《大事業としてビクトリアピーク(香ヶ峯)の中腹に御造営を急ぐ香港神社と、金馬倫山と呼ばれてゐる香港中枢の高地に、大忠霊塔の建立が進捗して大香港の面目と雄大な皇国の余裕を感謝せずにはゐられないのである。》

「甦つた」とあるのは、中国本土から流入していた避難民が日本軍の占領とともに本土へ戻されたことを指すのであろう。香港神社は未完成に終わった。

《香港島と九龍半島を継ぐ唯一の交通機関であるフエリー(渡船)は、美しい色彩に塗られ、面白いことは二階になつてゐて、前後が同形で前後左右、自由に航行出来ることである。》《このフエリー、二階のある電車もバス等も英国統治下にあつては判然とした差別的待遇を受けて中国人工員等は絶対に一等に(つまり二階に)乗ることができなかつたのであるが、いまは総督統治下あらゆる人種的差別待遇は一掃されてしまつた。》

《在支米軍の度々のゲリラ的空襲下にも慌てることなく避難して、解除のサイレンが鳴と又何事もなかつたやうに人々は歩いて街は再びもとの賑やかさになり人一人居なくなつた電車も入口の、鉄格子になつたドアに満員の札を下して走り出す。
 物売りは舗道から車道へ、はみ出して竹籠や金物の器の中から品物を取り出しては店を開くのである。特別な訓練もないであらうが混乱することもなく、一つの自然な形の秩序さへ感じさせられる程、平静さは何処から生まれて来るものであらうか。》

さし絵のサイン 伊勢正義
http://bookcover.exblog.jp/10119414/

  *

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大橋博之『SF挿絵画家の時代』(本の雑誌社、二〇一二年九月二五日)を頂戴した。小松崎茂から加藤直之までSF小説を彩ってきた挿絵画家たち71名を主に取材もとづいて論じている。これは大変に参考になる資料だ。挿絵画家は消耗品扱い、すぐに忘れ去られてしまう運命にある。こういった仕事の重要性は強調しすぎることはないだろう。
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by sumus_co | 2012-12-13 20:28 | 古書日録
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