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チャリング・クロス街84番地

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長岡天神で求めた『チャリング・クロス街84番地 書物を愛する人のための本』(江藤淳訳、中公文庫、一九八四年一〇月一〇日、カバー=田淵裕一)と少し前にブックオフで買った『チャリング・クロス街84番地 本を愛する人のための本』(江藤淳訳、リーダーズダイジェスト社、一九七四年三月一日四刷、初版は一九七二年)。後者の表紙の写真はマークス社の店頭。口絵に同じく店頭写真(人物が表紙とは異なる)およびロンドンの地図、書斎でのヘレーン・ハンフの写真とチャリング・クロス街の南端レスター広場の写真が掲げられている。文庫版ではそういったものはもちろん、挿絵代わりに本文中に配された切手などの図版も削られている。

テキストの内容そのものはほとんど変らないようだが、細かい改変はある。目立つところではタイトル副題が違っている。四刷りのカバー袖には谷川俊太郎のコメント。原著を読んでの感想になっているのが、さすがスヌーピーの翻訳者である。

《〈あしながおじさん〉ならぬ〈フランキー〉の、いつも律儀だけれど暖かみのこもった手紙と、ヘレーンの例えば一人称の I を小文字で書いたり、ぴちぴちした手紙の対照の妙、それがこの本の魅力のひとつでしょう。〈古書ブーム〉などというものと無縁なところで、書物のもつ本来の力が大西洋をへだてた心と心を結びつけたことに、私は感動します。》

『84, Charing Cross Road』(Grossman Publishers, 1970)
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文庫版の解説は元版の江藤による解説をそのまま収めて短い「文庫版あとがき」が付されているだけ。ゲスト解説は省かれている。

《私が、生まれてはじめて西洋の古本屋ののれん[三文字傍点]をくぐったのは、いまから十一年前、一九六一年の夏の終りごろのことだった。ところはロンドンで、私は西ドイツからの帰り途であった。大学で英文学を勉強した私にとって、この最初のロンドン訪問がどんなに胸躍るものだったかは、ちょっと筆舌につくしがたいほどである。私は緊張し、昂奮し、そしてあちこち歩きまわりすぎたので少し疲れていた。グリーン・パークのベンチに坐ってひと息入れてから、気をとり直してまた街に出ると、そこに一軒の古本屋があった。》

ここで江藤は貧乏な学生時代に神田の松村書店で買った『ローレンス・スターン全集』(W.ストレイハン、J.リヴィントン・アンド・サンズ、一七八三年)のことを思い出す。

《背皮・瑪瑙紙装の堂々たる装丁で、Oswald Toynbee Falk という蔵書票[ルビ=エクス・リブリス]が貼ってある。いまから十八年前に、そろいで二万円もした。》

AbeBooks で検索すると『The Works of Laurence Sterne』(London: printed for W. Strahan, J. Rivington and sons, J. Dodsley, G. Kearsley, T. Lowndes [and 6 others in London], 1783. 10v.)はだいたい千ドル少々で出ている。一九五四年頃の二万円(コーヒー80円の時代)は少し高めだろうが、オズワルド・トインビー・フォーク(1879–1972)の旧蔵書なら理由なしとはしない。現在はほとんど語られることはないものの、存命中のフォークは超一流の株式売買人でエコノミストだった。第一次世界大戦前後に四歳年下のジョン・メイナード・ケインズといっしょに政府の仕事をし、ケインズ理論に影響を与えたとも言われるようだが、後年、二人共に互いのことはほとんど語っていないのだそうだ。オックスフォードのベリオール・カレッジ(Balliol College)史料館にはフォーク旧蔵のパリ講和会議資料、一九三〇年代の英国外交政策資料に加えてケインズのフォーク宛書簡が多数所蔵されている。

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江藤はロンドンのその古本屋でヘレーンの文通相手だったフランク・ドエルかと思うような店員に声を掛けられた。

《名前も覚えていないこの古本屋で、私は結局シドニイ・キイスの遺稿集を一冊買った。場所が少しはなれているから、この店がマークス社であるはずがない。しかし『チャリング・クロス街84番地』を最初に読んだとき、私はほとんど反射的にあのロンドンの古本屋を思い浮かべないわけにはいかなかった。ヘレーン・ハンフのように、私がその後あのもの静かな店員と文通したり、本を送ってもらったりしなかったのは、あの当時円がまだ今日のように強くなかったからである。本当に、円を封筒に入れてそのまま送れば、希望する本が届くのだったら! しかし、それはあのころ米ドルだけが享受していた特権であった。》

文中「シドニイ・キイスの遺稿集」というのは『THE COLLECTED POEMS OF SYDNEY KEYES』(Routledge of U.K., 1945)だろうか。今日ではシドニー・キーズ(Sydney Keyes, 1922–1943)と表記されるようだ。若くして死んだ英国の詩人である。

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講談社版の書影も参考までに。

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映画「チャリング・クロス街84番地」
http://sumus.exblog.jp/18436930/
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by sumus_co | 2012-11-24 21:33 | 古書日録
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