林蘊蓄斎の文画な日々
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ふりつち

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うどん県だの讃岐だのと出身地ゆえにいつも軽く書き捨てているが、読者のみなさまにはいったいそれがどこにあるのかイマイチはっきりしない方々も少なくなかろうと思う。関東で香川県というと「ああ、四国の」という答えが返ってくることが多い。四国のイメージはあるようだが、その四つのパートのどこがどこの県なのか漠然としているらしい。これは誰にでも言えることで、足を踏み入れたことのない土地について不案内なのは当たり前。誰かが、人間は生まれた土地を世界の中心だと考えると言っていたような気がするが、たしかに一理ある。周縁はあいまいなのだ。

と書きながら引用した地図が『大日本行程大絵図』(慶応元年、近江屋卯兵衛・平野屋茂兵衛・竹原好兵衛、東光社による復刻版)ではさらに分り難いかもしれない。上段の見開きは大阪湾から瀬戸内海。次はそのクローズアップで、讃岐の中央から東部にかけておよび徳島の一部の大雑把な形勢である。

右手の赤丸に「引田(ひけた)」とありそのすぐ右上に「白とり」とある。このあたりが小生が中学時代まで過ごした地域ということになる。左手の赤丸が「こんぴら」だから引田は金比羅さんとタイマンを張っていた。ただし昭和三十年代においては三本松ついで白鳥が手袋業で栄えており、引田は衰微していた。漁業や醤油製造が盛んだった往時をしのばせる屋敷がまだいくつも残っていたことは覚えている。

讃岐国は高松藩松平讃岐守十二万石、丸亀藩京極佐渡守五万千五百十二石、多度津藩京極壹岐守一万石より成る。四角囲みの寺名は四国八十八箇所。当然ながらこの地図は観光地図であるから札所が番号順に掲載されているわけだ。吉野川沿いに一番から始まっているのは徳島県で、香川側は八十八番大窪寺まで、ここで結願となる。藩名のとなりには江戸からの距離数も記されている。高松が「百七十九リ半」。

今回はまったく古書店には立ち寄れなかったため以前讃州堂書店で求めたものから紹介する。『ふりつち』第52号(讃岐おもちゃの会、一九七七年三月二五日、題字=和田邦坊、版画=武田三郎、限定四百部)。表紙は多色木版画を貼付けてある。武田三郎は一九一五年多度津町生まれ。八一年に歿するまで地元を舞台に活躍したそうだ。二〇〇一年に丸亀の中津万象園丸亀美術館で回顧展が開かれている。
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和田邦坊は明治三十二年(一八九九)琴平町出身。東京日日新聞社で漫画家として活躍した。「俺が女房にや髭がある」(映画「うちの女房にゃ髭がある」の原作)の著者。昭和一桁から十年ごろに雑誌『キング』などに執筆していた売れっ子だった。昭和十三年に帰郷し画家として活動しながら民芸やデザインの振興に尽力した。平成四年歿、九十三。目次頁に53号とあるが52号の誤りのようだ。
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武田三郎作の「あめ玉」と題した付録。この頁を切取って豆本を作ることができる。これも木版摺り。
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注目したのは和田邦坊が「山内神斧君のこと」という一文を掲載していること。画家であり編集者であり古書店主(梅田書房)、趣味本の出版人でもあった神斧山内金三郎との清遊を懐かしんでいる。
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《婦人雑誌『主婦の友』の重役山内神斧君と知り合ったのが、丁度、その時でした。
 彼が僕の好きそうなツイードの立派な洋服を着ていました。『ヤー』『ヤ−』と初めから、旧知のような懸け声で話しました。
 不思議に彼の顔は若かったのです。後で判ったのですが、山内君は先輩岡本一平氏と同窓の美校出身ですから、僕より十何才も年上の紳士でありました。
『あんたは、玩具好きですか』
『まァね』
『木造りの汽車はいいね。僕は随分郷土玩具を蒐めているが、玩具というものは大抵、木と土だね。この頃の玩具は堕落しましてね。木の汽車はいいー』
 それから僕と彼との交際が始まりました。初めの彼の来訪は原稿執筆の用件だったのに、話は玩具に移って、彼の柿の木のある、洒落た住いの蒐集品を見せて貰ったり、一諸に、古道具屋の古玩具をあさったり、よく遊びました。》

時代は明記されていない。おそらく昭和ヒトケタであろう。文中の文字遣いはそのままにしておいた。
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by sumus_co | 2012-11-18 21:05 | うどん県あれこれ
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