知人に誘われて東京駅丸の内からすぐの三菱一号館美術館へ。煉瓦建築をそのまま美術館として転用している。「シャルダン展 静寂の巨匠」。シャルダンは美術の教科書にも載っていたし、よく知られている画家だと思ったのだが、美術好きという人でも案外と知らないので驚いた。観覧者もそう多くはなかったのでゆっくり見られた。
ただし、全体に小振りな作柄だったのが予想外だった。もっと深々としたものを期待していたのに反して案外と軽い作風である。有名な「食前の祈り」(一七四〇年頃、最初の図)だとか「羽根を持つ少女」「買い物帰りの女中」など代表作はだいたい集められていたようだが、作品が小さいというばかりでなく、もうひとつスケール感のない作家だと思った。しかしそれはそれなりに柔らかい光の描写や的確な形の把握と筆の省略などは印象に残る。「木いちごの籠」(二番目の図)のガラスコップなど、近くで見るとほとんど一筆で決めている。通俗に堕す、その一歩手前で踏み止まったかのようだ。
「食前の祈り」は明らかにオランダ画派の室内画を意識した作品と思う。フェルメールを知っていたのかどうか、分らないけれども、多分知らなかったろうが、シャルダンはフェルメール(オランダ画派としてはやや異質な)に近い雰囲気をかもしだしている。
学生時代にファブリの大判で薄い画集(作家ごとに一冊になっている)を集めていた。そのなかにシャルダンの巻もあった。表紙は染付けの長頸壷に生けられた白い花の絵(この画集も展覧会場に並べられていた)。その実物の花の絵の前で、四十年近く前に同じ絵をその画集から模写したことを思い出した。