小峰大羽『東京語辞典』(新潮社、一九一七年一〇月一五日)をギャラリーに持参してくださった方がおられ、しばらく貸してくださるとおっしゃる。それは有り難く嬉しい。こういう辞典は大好きで見つけると買ってはいるのだが、そう簡単には見つからない(むろん安価でという意味、本書も某古書店ではかなりの値である)。徳田秋聲の序に謂う。
《こゝに画家であると同時に俳人である小峯大羽君の名を或は胴忘れしてゐる人がないとも限らぬが、昔は駿河台にお屋敷のあつた、江戸ッ児のなかでもお歴々の一人であつたと云ふ君を私が知つたのは牛込時代で、君が紅葉先生のところへも出入りして、柳浪、眉山などゝ云ふ硯友社の作家と友達であつた時分のことである。》
小峰大羽を検索しているといろいろなことが分る。しかし肝心なことは全く分らない。生没年や本名など。生没年はNDL-OPACで検索するのがいちばん安直な方法だが、著作は七冊ほどヒットするものの著者名に生没年は記載されていない。さらに検索していると高山市図書館「煥章館」 内に開館した「高山市近代文学館」において平成二十一年二月に「小峯大羽展」が開催されていたことが分った。
《「飛騨史壇」の編集「蘭亭遺稿」の編集「山ずみ」「秋草」「凌霄」等の吟社の作句指導を行い、郷土の近代文学の振興に大きく影響を与えた小峯大羽の業績をたたえ、企画展を開催しました》
ただし、これだけ。展示に関する報告は『高山市近代文学館調査・研究報告書 平成20年度』(高山市文化協会)に掲載されているらしいが…。また徳田秋聲記念館では二〇〇八年に「秋聲の本・明治篇〜木版口絵と装丁の美/後期特集「小峰大羽の装丁」」という展示もあったらしい。秋聲とは親しくて年譜に何度も小峰大羽の名前が出て来る。装幀家・挿絵画家としても活躍したようである。また俳人としては『大羽楼句集』(大羽先生画讚展覧会事務所、一九三九年)や星野麦人と共編の『俳句大観』(美育社、一九〇二〜三年)という仕事もあり、多彩な活動をしたことが分る。ネット上で拾った大羽の句。
帯解けばばたりと落ちし扇哉
月赤し蝉は真昼の顔を上げ
扉に「東京文理科大学付属図書館図書之印」。東京文理科大学は昭和四年に東京高等師範学校の専攻科を改組して発足。戦後の学制改革により東京教育大学(現・筑波大学に改組)に包括された。
辞典の記載がまた味のある文章なのだが、ここで紹介していてはきりがない(近代デジタルライブラリーにて閲覧できるとの情報を得ました、ご興味のおありの方は国会図書館へアクセスしてみてください)。ひとつだけ目についた単語「鶩文庫」…そんな文庫があったのか?
《あひる・が・ぶんこ[鶩文庫]女の臀の高き者を嘲りていふ語。「ーーを背負つたやうだ」。棚ッ尻にて結びし帯が其位置に落着がなく、歩く度毎に危ふく動揺するに譬へて云ふ也。》
大阪の高尾書店のレッテルが。これは初めて見た。