渡辺与平『ヨヘイ画集』(文栄閣書店+春秋社書店、一九一〇年一二月一九日)がヒョンなことからわが家にやってきた。ちょうどスミカズとの影響関係を調べていたところなので、まったくグッドタイミングだった。日頃の行いはまったく良くないのだが、こういう巡り合わせもある。
ヨヘイが新聞や雑誌のために描いたコマ絵を集めたもの。コマ絵とは一コマ漫画のようなものだが、当時の印刷用語で「コマ」というのは活字のことで活字と同じ高さに組むように彫刻した挿絵の版木(およびその印刷されたもの)を「コマ絵」と呼んだらしい。明治末頃だと、まだ写真製版で鋳造した挿絵よりも木版の挿絵の方がコストが安い(あるいは手っ取り早い)時代だった。だから原稿は残らない。おそらく原稿をそのまま版木に張り付けて製版したと思われる。よってこういう画集を作るためにはその彫ったコマ絵の版木を印刷所から回収しなければならなかったようだ。
ここでは与平が自分自身をカリカチュアとして描いたコマ絵をいくつか拾ってみる。まずは「敗軍の将は兵を語らずサ」。裏返しにした大きなキャンヴァスの前で酒をくらってふて寝している男。展覧会に落選した図というこころ。実際、与平は明治四十二年の第三回文展に落選した。妻の文子は入選したために、
与平可愛いやおふみに惚れて秋のサロンにはねられた
という戯れ歌が画学生の間で流行したくらいちょっとした話題になったらしい。文子は美人だったので画学生の間でも人気が高かった。
こちらも与平だろうか「ENNUI」(退屈)とフランス語の題名。この壁に足をもたせかけるポーズは小生もよくやっている。
歯を磨く男。題は「日三竿」(日が高いの意味)。
長女美代子が誕生したのが明治四十三年八月だから自分の娘かもしれない。
「モー三分モー二分」、こちらも朝寝坊の図。どうやら朝は苦手だったらしい。
与平の写真はこちら。美男美女のカップルだった。
ということで、明日は午後二時より与謝野晶子文芸館にて瀧克則さんとスミカズ対談。お近くの方はぜひご参集ください。