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本の手帖31〜40サン・ルイ島に渡る。《一九三〇年頃、日本美術コレクターとして早くから日本人に知られていたユルリック・オダンが、この島のベチューヌ河岸に住んでいた。僕はその岸にたたずみ、彼の住んでいた五階のバルコンを見上げ、往時を偲んだ。この家のサロンで僕も、他の留学生たちと一緒にお茶の接待を受けたものだ。オダンはその後東京の荻窪に妻とめと移り住んで、日本の土と化した人だ。この岸から見える彼の部屋に、昔かけてあった栖鳳の「烏賊」の図が眼に浮かんでくる。》近くのアンジュ河岸にボードレールが住んでいたピモダン館がある。《オダンもこの詩人を好きだったらしく、「悪の華」の中の「おお、主よ、わが心と肉体を嫌悪なしに挑むる力を我に与え給え!」という意味の詩句を、よく口ずさんでいたことを思い出した。》 カルチェ・ラタンでは《学校の裏手のデカルト街に出て、ヴェルレーヌの最後の家の前に出た。階下はヴェルレーヌ書房という看板が出ていて、飾窓に本が並べられてある。パンテオン前の横丁のスフロー街から、下り坂になっているトリエ街に出て、往年永井荷風が泊まったというホテルの前に立つ。》ここで「学校」というのはソルボンヌのことのように書かれているが、アンリ四世校だろう。その裏のデカルト通りにヴェルレーヌの家があり、その家の左側にヴェルレーヌ書房があった(というのが蜷川譲『パリ文学地図』の説明)。この書店は現存はしないと思う。この通りは何度か通ったが記憶にない。それからボードレールの墓というキャプションのある写真が掲載されているが、どうもボードレールの墓ではないようだ。少なくとも小生が訪れた詩人の墓ではない。
by sumus_co
| 2012-05-26 21:29
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