林蘊蓄斎の文画な日々
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武蔵野インディアン

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三浦朱門『武蔵野インディアン』(河出書房新社、一九八二年七月三〇日、装丁=菊地信義、装画=田中靖夫)。かなり前に装幀が気になって買ってあった。署名入り。久しぶりに拡げてみると珍しく読んだ形跡もある。中編が四作収録されているが、付箋が二ケ所。その一つはこんなところ。

《「連発の村田銃が採用になったのは、明治二十二、三年だろう。そして日清戦争の結果、明治三十年に三十年式になった。さらに日露戦争の終わった明治時代三十八年に三八式になった。この間それぞれ、十年足らずで銃が変っている。しかし三八式以来三十五年間、陸軍は同じ銃を使っている」》(「敗戦」)

連発の村田銃の正式名称は「明治二十二年制定 大日本帝國村田連發銃」だそうで、名前のごとく二十二年に制定された。昭和十四年に九九式小銃が採用されるまで、というかそれ以後も全てを新式に更新することが出来なかったため三八式歩兵銃は使い続けられた。《小銃という最も基本的な武器によって見る限り、軍の根幹は二十世紀初めから停滞していたと見るより仕方がなかった》と作者は結論している。以前も似たようなことを書いたかもしれないが、要するに日露戦争の勝利が第二次大戦の敗北を準備したのである。

もう一ケ所は昭和二十年秋の岩波書店風景。

《岩波書店で文庫を売り出すと、どういう本かということもはっきりしないのに、神田の電車通りにまで、長い行列ができた。そこに並んでいる学生の顔を見ていると、彼らはみな戦時中、「われわれは大東亜の指導者となるために……」とか「九軍神の精神をうけついで……」と演説していた上級生と似たような顔をしているように思われた。
 その中に一人、高校の同級生で、およそ教養や学問と縁のなさそうなのがいたので、
「お前、何で並んでんだ。この列は外食券食堂とは違うぜ」
「バカ、何でもいいから買っておいて、一二ヶ月ねかして売れば高く売れるんだ」
 なるほど、そういうテがあったかと、久男は手持ちの「良書」や「名著」を売ることにした。》

《大学のアーケイドに互助板という物々交換や不用品の売買のための板があって、「善の研究米とかえたし」と書いておくと、その余白に希望者が交換場所と日時を書き込んでおく。
 久男の本を買った学生は誰も食料不足で青黒い貧相な男ばかりで、彼は餓えた者から食料を搾取しているような良心のとがめを覚えた。》(「敗戦」)

三浦は昭和二十三年、東京大学文学部言語学科卒業。今回ざっと読み返してみて、書物関係でいくつかメモしておきたい記述が見つかった。不良だった教え子が書店の店主になっている話。

《久男はアメリカの大学町の本屋の話をした。ポケットブックなど、帳場へ持ってゆくと女の子が、
「ホールド・イット(持ってて)」
 と言い、PAID(支払いずみ)という大きなスタンプを、久男が持った本におしてくれる。
「万引防止ならそれができりゃいいんですよね。それができないから、代金もらった本を一々包むんですよ。でも、本を買いに来た人は、本を見ますよ。万引きしようというのは、まず、店の者を見ますね」》(「武蔵野インディアン」)

もう一ケ所、学生アルバイトとして父(三浦逸雄)の友人が始めた出版社でファッション雑誌の記事を翻訳をする仕事を始める。

《久男たちの作った婦人雑誌とスタイルブックは、敗戦後、雑誌や本とあれば何でも売れるという状態が続いていたから、販売面では好調だったが、久男としては、同じネタを使っている競争誌の翻訳が気になった。それを見ると、久男の翻訳もひどいものだったが、そちらも似たりよったり、いや、久男の自惚れかもしれないが、自分の方が大分とマシに思えた。
 それでも、時々はまともにアメリカのファッションを調べるために、日比谷のアメリカのCIE図書館に通った。ここは米軍直営の図書館で、戦前は日本製の紅茶の宣伝をかねたスナックだった場所で、久男も中学のころ、何度か来たことがある。紅茶はやはり英国の方がよいように思ったが、ベルト・コンベヤのようなものにのせられたパンがトーストされ、サンドイッチになるのが面白くて、久男はこの店が好きだった。ガラスの多いモダンな建築だったが、図書館になってからは、冬になると学校は勿論日本のビルも暖房がないのに、ここだけは温かった。》(「敗戦」)

CIEは「民間情報教育局」(占領期における図書館政策の推移)で日比谷の日東紅茶喫茶店が図書館として利用された。そこで三浦はバザー、ボーグ、ライフなどの雑誌を拡げてメモを取っていたということになる。
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by sumus_co | 2012-04-24 21:25 | 古書日録
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