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ある出版人の肖像

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大谷晃一『ある出版人の肖像 矢部良策と創元社』(創元社、一九八八年一二月一日、装丁=倉本修)。創元社と青山二郎の関係の始まりはどういうものだったかな? と思って取り出してみた。

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同書口絵写真より。青山二郎は後列右から二番目。後列左から四番目が小林茂(東京支店長、後、東京創元社社長)、五番目が矢部良策(社長)、六番目が岡村政司(東京支店編集者)。前列、右手、コートで膝を隠しているのが小林秀雄。

昭和十一年に東京支店は芝区二本榎西町の小林茂宅から独立して赤坂区仲ノ町十五へ移転した。十二月に北条民雄の『いのちの初夜』を出版する。

《小林茂がこれを手に入れたのは、「文学界」同人だった小林秀雄の尽力による。このときに、彼は創元社の顧問になった。週に一日出社する。》

小林秀雄と創元社の関係は山崎安雄『著者と出版社』(学風書院、一九五四年)によれば昭和九年ごろにさかのぼる。

《初代編集長の岡村政司氏が、小林さんの原稿をもらつたことにはじまるが、そうして知り合つたある日、小林茂社長は、当時あまり有名でもなかつた小林(秀雄)さんを、銀座の某料亭に招待した。約束の時間よりやや早く到着した小林社長は、小林さんの見えるまでと思つて、通された座敷で横になつた。夏のことで、疲れてもいたのであろう、ついウトウトとまどろんだ。おくれてやつて来た小林さんは、独りでビールを飲みはじめた。社長はなかなか起きそうにもない。そのうち酔いがまわつてきたのであろうか、いやカンにさわつたのであろう。小林さんはやおら身を起すや、かたわらに軽いイビキをかく小林社長の頭から、ドクドクとビールをそそぎかけたものである。》

小林社長(当時は支店長)はびっくりして飛び起きた。ばかやろう、いつまで寝てやがんでぃ(と言ったとは書かれていないけれども、芝白金今里町生まれなので。小林茂も同年同地域の出身)と秀雄に怒鳴られて、礼儀を失したことを手をついて謝ったそうだ。やんちゃな秀雄くんとクリスチャンでまじめ一本の茂さんは、このときから仲良くなりました、ということらしい。

昭和十二年には四谷区愛住町十九番地の小林茂宅へ東京支店は再び移転。そこへ小林秀雄の紹介で大岡昇平がアラン『スタンダアル』の翻訳を持参した。昭和十三年にはやはり小林秀雄の持ち込みで中原中也『在りし日の歌』を刊行した。装幀はもちろん青山二郎。このあたりから、創元社を食い物にした(?)となじられるのだろうが、けっして売れない本ではなかった。『いのちの初夜』はよく売れているし、その縁で川端康成の『雪国』も出版できた。『在りし日の歌』も再版が出ている(初版が少なすぎたのだろうが)。そしてきわめつけは創元選書である。小林秀雄らの発案だった。

創元選書
http://sumus.exblog.jp/13401066/

ということでこれも青山二郎の意匠であるが、『ある出版人の肖像』によれば、昭和十五年、

《青山二郎が「会社の隅に机を一つ置いてもらえまいか」と申し入れ、週に二日か三日は気ままに出勤する。叢書の他に単行本の数もふえ、その多くを青山が装丁した。他に佐野繁次郎と恩地孝四郎に頼む。青山のは、新鮮で滋味にあふれ、本屋の店頭で生彩を放つ。
 小林秀雄は明治大学の講義をすまして週に一度は創元社に顔を出し、青山が居あわせると楽しそうに連れ立って夕景の町へ消えてゆく。
 この年から東京で「創元」と題する月報の発行をはじめた。三十ページばかりのPR誌である。》

というように創元社東京支店と小林・青山の関係はたいへん良好だったようである。それもこれもビールぶっかけのおかげなのだった。
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by sumus_co | 2012-03-05 20:11 | 青山二郎の本
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