先日、神戸で鴨居玲展を見た。これまで回顧展を二度(姫路と大阪)は見たし、かつては銀座の日動画廊でも見ているような気がする。姫路の森画廊でも一昨年秋に
「没後25年記念 一期は夢よ 鴨居玲展」が開かれた。画集や素描集もかなりの古書価が付いている。根強い人気の作家であろう。
この展覧会では「月に叫ぶ人」(一九五八年?「月に飛びつく人々」の方が妥当な絵柄)、「宴」(一九六五年、初公開)、そして安井賞を受賞した「静止した刻」のヴァリアントのひとつ「蛾」(一九六八年、未発表)などこれまで展示されたことのなかった大作が目玉。他には神戸で鴨居玲が通ったバー「デッサン」関連の素描や、そこの通気孔の蓋に描かれた絵など珍品もある。現金の必要から手放した恋人の肖像(松本竣介を少しだけ連想させるような初期の佳作)も珍しい。後年、有名になってから所蔵者に新作との交換を求めたが、所蔵者は断ったという話を島田さんから聞いた。
好きか嫌いかと言われると、あまり好きな画家ではないが、展覧会があると聞いたら見に行きたくなる。郷里に少年時代に時々通った歯科医院があった。後年(絵描きになってから)、一度だけそこで治療してもらったことがある。治療室に入ってぎょっとした。鴨居玲のかなり大きな作品がかかっていたのだ。それが、例の浮浪者のような国籍不明の男性が頬を白い布で縛り上げ、どんよりとした空中から吊り下っているような、ちょっと不気味な作品だった。歯痛というタイトルだったような気がするが、その画のテーマが気に入って買ったのだと医師は説明してくれた。治療室に似つかわしい作品だとはどうしても思えなかったにしても、強烈な印象は残った。
同時開催は永田耕衣展、こちらもなかなかいい。ともに1月25日まで。
ギャラリー島田
http://www.gallery-shimada.com/