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黒田三郎追悼

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『歴程』No.258(歴程社、一九八〇年四月一日)。京都へ戻る新幹線で読んでいた。会田綱雄も一文を寄せている。

《昭森社の近くに、兵六という居酒屋があって、むかしから球磨焼酎をおいていたので、わたしはひとりでときどき呑みに行ったが、そこで一度偶然、黒田三郎と隣りあわせたことがある。二十年ぐらいまえのことではなかったか。話しているうちに、黒田三郎が謙虚なはにかみを見せながら歴程にはいりたいが、と言った。思いがけないことだった。わたしは感激して、翌月「歴程」同人会に出席したおり、同人になる意志が黒田三郎にあることを伝達した。》

臼井愛子の「「ラドリオ」から」も貴重な文章だ。

《日暮時お向の二階の笑声が富山房の塀にひびいて私の耳に入ってきます。又森谷さんと何人かの方で酒盛が始まったのでせう。
 時間とともに店はお客様でにぎやかにタバコの煙、思い思いの語らい、店にはシャンソンが流れています。そんな所へ森谷さん、大村さん、うしろよりニコニコ顔で入ってらっしゃった黒田さん何時もお酒を飲んでいらっしゃる時は楽しそうですね。
 或夜私がカウンターの中で働いて居りますと突然「ガシャガシャン」とガラスの壊れる音にびっくり外に飛出て見ますと昭森社の硝子戸がはずれガラスはメチャクチャ、路上にたれかが倒れて居るではありませんか。私は急ぎかけより「だいじょうぶですか? あら黒田さんこんなにお酔いになって、しっかりして下さい」私は腕を貸し「サーお立ちなさい」併し一所懸命起しても又倒れてしまいます。
 よくよく見ますと、ズボンが下まで落ちて、而もベルトの前は掛けたままです。そのため足にからまり十三階段より落ち戸外にまで転げ出てしまったのでせう。幸い怪我もなさらず「どうもありがとう」とニッコリ、それとも苦笑いか暗闇に消えて行かれました。》

森谷さんは昭森社の社主・森谷均、大村さんは大村達子、昭森社を切り盛りしていた女性である。この追悼文集には多くの詩人が文章を寄せているのだが、いちばんすごいとおもったのは娘の須田ユリによる「「かなしい西部劇」」。身内のことだから凄いというだけではなく文章も上手い。いつものごとく泥酔して帰った父黒田三郎が、ねぼけて「インディアンが来る!」と騒ぎ出す。

《私が「お父ちゃま、テレビの見過ぎよ」と否定し、弟もきてもう寝ましょう寝ましょうとせき立てると母も「そうよ、インディアンは石神井までは来やしませんよ」父は耳も貸さずに、私にライフルを出せと言い出した。》

《「灯りを消せ」、「保安官を呼べ」、「その死体を片ずけろ」とやたらと命令を出し、自分も千鳥足で、あちこちぶつかりながら動きまわっている。そのうち何だかホッホッホッと奇声を発しているので、見ると父は今度はインディアンの側にまわったらしい。片足とびに跳びはねる恰好が振っている。》

何十分かそれが続いた。

《あとでトイレに起きて行くと、辺りは静かになっていて、玄関脇に父があお向けに倒れ、刀折れ矢尽きた態で何かうわ言のように言っている。傍らにかがみこんでいる母に向って、「わしのことはいいから、光子お前ら逃げろ。俺の馬に乗って、早く、逃げるんだ」と、まだやっていたのだった。
 あの西部劇ごっこの夜のように、「俺を置いて行け」という父の言葉に叱咤されて私達は今、父を一人だけ見捨ててきてしまった。そして私たちは互いにそのことに触れないように知らん振りして暮している。けれど、あの可愛[ママ]そうな父親を独りだけ、人っこ一人居ない場所に置いてきぼりにしたという意識が、心の深くに刺のように突きささって、日が経てば経つほど、動けば動くほと[ママ]疼くのだ。》

妻光子の文章も容赦なくて素晴しいが、引用は最後の一文だけにしておこう。詩人の妻はこうでなきゃ。

《若し冥土への便があれば、私は夫に言づてを頼みとうございます。
"たとえ誰一人あなたの詩を読む人が居なくなった時でも、あなたの妻は、最後に残る黒田ファンです"》
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by sumus_co | 2011-10-27 21:25 | 喫茶店の時代
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