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会田綱雄

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古本屋はどこものぞかなかったのか、というと、そうでもなく、昨年『ちくま』表紙画展をやってもらったウィリアムモリスへ向かっていたときに中村書店の前を通り過ぎることができなくてフラフラと入ってしまった。前に来たたときもそうだったけれど、古書目録などの書影でしか知らない詩集がズラリと並んでおり、あっという間に小一時間を過してしまった。ここ数日の上京疲れもひととき忘れることができた。やっぱり古本浴はいい(?)。

何万円もする詩集が無造作に棚に差してありながらも、さてどれを購入できるというものでもなく、ぜったいに欲しいというもの(たとえば桑島玄二とか)もなく、一時間もねばると手ぶらでは出難くなる。とりあえず一冊は『歴程』黒田三郎追悼号(歴程社、一九八〇年四月一日)を確保して、これは割安の○百円なので申し訳ないと思っていると、この『作品第四集』(奥付等なし、一九七六年?)が椎の木社の本と『詩と詩論』の間からそっと現れた。

三十二頁ばかりの作品集。寄稿者は表紙に見える通り。この会田綱雄の作品が載っている頁に手紙が挟んであった。会田綱雄の手紙である。会田についてはほとんど名前くらいしか知らなかったが、この字(墨筆)に惚れて求めることにした。

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以下コクヨの二百字詰原稿用紙二枚に書かれた文面(全文)。

《太陽と棺 お送り賜り ありがとうございま
ました。
 先日 初めて 韓国の土をふみ板門店を
も訪れて参りましたので 特に お作の板門
店に感動いたしました。
 同封の小冊子は お礼のしるしまでに。
                会田生

 なお 現代詩手帖一月号に 異境という題
 [一枚目了]
 で 板門店にふれてみました。試作にす
 ぎませんが このモティーフは 今後も
 なんとか生かしていきたいと 考えており
 ます。》

『太陽と棺』は井上由雄の詩集(思潮社、一九七六年)だから井上旧蔵の冊子ということなのだろう。ここで改めて会田綱雄の経歴をネットで見てみるとこのようにあった。

《1914-1990 昭和時代の詩人。大正3年3月17日生まれ。戦時中,中国南京で特務機関などにつとめ,草野心平を知る。戦後,「歴程」の同人となり,昭和33年詩集「鹹湖(かんこ)」で高村光太郎賞,53年「遺言」で読売文学賞。平成2年2月22日死去。75歳。東京出身。日大卒。》

おや、と思った。《中国南京で特務機関などにつとめ》である。さっそく『sumus』第五号洲之内徹特集の人名索引を見てみた。やはり出ていた。『気まぐれ美術館』(新潮社、一九七八年)に一度だけ登場。「続続山荘記」の冒頭。

《鬼とは何かーー
 唐突に鬼のことなんかがここへ出てくるのは、十月に出湯へ行くとき、会田綱雄氏の「さらば鬼よ」という書の額を持って行って、山小屋の壁に掛けたからである。その額は二年前、私の画廊で会田さんの書の展覧会をしたとき、私が自分用にとっておいたのである。そのとき、鬼とは何かについて会田さんにいろいろ説明してもらったと思うのだが、私はみんな忘れてしまった。忘れたのではなく、聞いても解らなかったのだろう。それっきりで、だから、いまも解らない。》

会田の書展は一九七四年十二月に「会田綱雄 詩と絵と書」と題して開催された(後藤洋明編「現代画廊展覧会歴」)。会場には詩人が多勢現れた。吉岡実、石垣りん。西脇順三郎はサイン帖に洲之内の似顔絵をスケッチした(それが『気まぐれ美術館』の表紙に添えられている)。それにしても、どうして会田の書の展覧会なのだろう? と考えるに、大陸で旧知の間柄だったのではないかという推測にどうしてもなってしまう。いずれにせよ、洲之内も会田の書を認めていたと知ってちょっとうれしい。

中村書店では老婦人が店番をしておられた。さし出した薄い冊子二冊を丁寧に点検して、値段をたしかめ、

「◯◯円ですが、よろしいですか?」

と念を押す。むろん「ええ」と答える。ところが老婦人はどこかその値段が腑に落ちない様子だ。こんな冊子はどうやらこの店では二百円くらいが相場なのだが(そういう同人雑誌が何冊も棚に並んでいた)、『作品第四集』はもう少し高かった。

「四十年やってましても、これは見たことがありません」

とフォローするようなことを言ってくださった。さらにゆっくりと頁をめくり「何かはさまってます」と会田の手紙を見つけ、「これは滅多にないものです」と駄目押しのようにくりかえして、ようやく得心されたかのようにレジのボタンを押した。ところがつり銭のケースが飛び出してこない。「ボケてきてます」とおっしゃるので「え?」と思ったら、ガシャンと出てきた。レジスターが古くなっているという意味だった(汗)。

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京都に戻ると例の古書目録が届いていた。松崎天民の小特集が面白い(天民と言えば、個展会場に来てくださった『ちくま』のAさんが、坪内さんの本は来年一月ぐらいにはできるでしょうとおっしゃっていた。期待しよう)。

前回、欲しいと思って注文出来なかった一冊を探してみたところ、売れずに載っていた。ついでに会田綱雄も探してみると『鹹湖』(緑書房、一九五七年、装=高橋錦吉)が出ていた。どちらにしようかかなり迷ったのだが、これも何かの縁ではないかと考えて『鹹湖』を注文した。パスした本は次号にも載っているだろう(と思うのはあさはかか……)。
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by sumus_co | 2011-10-25 21:17 | 古書日録
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