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春日鹿曼荼羅根津美術館で「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」という展覧会を見た。新美術館のアメリカ絵画かどちらか迷ったのだが、ちょうど火曜日だったため、新美術館は休館日だった。地下鉄にのっていると隣に座った中年女性ふたりがブーブー文句を言っている。新美術館へ行ったらしい。 「火曜休みと案内状に大きく書いておいてもらいたいわよねえ!」 「どうして火曜休みなのかしら、その理由が知りたいわ!」 どうやら美術団体の関係者らしかったが、そうとう頭にきているようすだった。たしかにほとんどの美術館が月曜日休館のなかにあって奇異にうつるのは事実だ(パリのポンピドゥ・センターも火曜日休み)。逆に、新美術館だけは見られるということもあり得るが。 最近は上京しても美術館ではなくて古本屋ばかりめぐっていたので、新しくなった根津美術館も今回が初めて。昔の暗い雰囲気は一切ないが、あまりにさっぱりしすぎているような気もする。それはともかく、今度の展覧会で見ておきたかったもの、上は「春日神鹿御正体」(細見美術財団、十三〜十四世紀)、下は「春日鹿曼荼羅」(奈良国立博物館、十三世紀)。なあんだ、どっちも関西にあるのか(汗)。 拙著『帰らざる風景』に収めた「ソーラーパワー銅鐸文様考」でこれらに似た樹木の生えた鹿について少しだけ触れている。ちょっとこじつけが過ぎる気もしたが、銅鐸に描かれている「矢を受けた鹿」とされる図がじつはこれらと同じ系統の神樹を載せた鹿なのではないか、という疑問を提出しておいたのである(詳しくは拙著を参照されよ)。 神樹あるいは聖樹とは、要するに太陽や星の運行を樹木として表わした天体図あるいは宇宙図のようなものである。典型的な例は中国の三星堆遺跡(前一〇〇〇年頃)から出土した巨大神樹。春日鹿曼荼羅ではその背負っている星星に観音や菩薩が当てはめられているわけだ(クリスマスがキリスト教の祭になったみたいに先行する信仰にかぶさっている)。大きな円形が大日ということだろう。背後には月も出ている。 三星堆の神樹には太陽と烏が付属しているわけだが、聖樹と動物の関係はかなり古くから見られる。次の図は前一三〇〇年頃のメソポタミアの円筒印章。聖樹と鹿、鳥、太陽(または星)が表わされている(『印章の世界 古代オリエント美術と歴史の語り部』古代オリエント博物館、一九九一年、より)。引用はしないが、聖樹に脚を掛ける「雄ヒツジの像」(ウル王墓出土、前二五〇〇年頃)という図版ものっているので、オリエントでの遊牧と天体、樹木、動物を中心とした世界観がうかがえるのではないかと思う。それがはるばるシカ・ロードを伝わって奈良の春日にまでやってきた。 「春日鹿曼荼羅」のテーマはともかく、その絵師の力量は相当なものである。繊細でありながら骨格の強さを感じさせる。色彩にも濃淡の変化にも不自然さがまったくない。これが隣に並んでいた南北朝の作となると、ほとんど同じ絵柄なのに、すっかり気が抜けてしまっている。絵師の上手下手ということも、もちろんあるだろう。しかし時代の流れがもうこういう鎌倉的な精緻さから逸脱していたのかもしれないな、などと考えたりした。 で、その後、知人の個展会場を訪ねたところ、火曜日休み! ちゃんとメモしてたはずなのに。なんとも情けない。
by sumus_co
| 2011-10-24 21:15
| 雲遅空想美術館
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