林蘊蓄斎の文画な日々
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掘出しもの

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『日本美術工芸』五十二号(日本美術工芸社、一九四七年八月一日)。巻末の「本誌の回顧」座談会で山内斧生(神斧山内金三郎)がこう発言している。

《本誌の前身は「阪急美術」ーー阪急百貨店美術部の機関誌でした。私がお招きを請けて阪急へ来ると(昭和十二年一月)宣伝のパンフレツトが月々いくつか出てゐるので、これを一まとめにして雑誌の体裁にし若干の読物を加へて出せばよからうといふことになり幸ひ編輯の経験(主婦の友)もあつたので、それに石井君[石井太郎]に来て貰つて共にやり出したものです。》

スタッフは二人の他に宣伝課長・内山信愛(京阪神急行電鉄宣伝部長)、茶席めぐり担当の中井浩水。『阪急美術』創刊は昭和十二年十月一日で昭和十六年七月号から『汎究美術』と改題して表紙がアート紙となった。同年九月に加藤いちゐが入社。『汎究美術』は九冊、五十四号まで。昭和十七年四月に『美術・工芸』と改題、三十一冊出して『日本美術工芸』に発展解消。株式会社として独立刊行したのが昭和二十年一月通巻三十二号。以後十月まで発行できずに、十月に三十三号を出し、二十一年六月三十八号から月刊ペースに戻った。そしてこの五十二号から加藤義一郎が編輯発行人となったようだ。

掘出し話は、時代的にも人選からも中国ものの名品掘出しの例がかなりあってスケールが大きいが、どれも面白い。やっぱり誰しも自慢には力が入るものとみえる。古書に関するところだけひとつ紹介してみると、田中槐堂(書家、帝塚山学院大教授)が戦前、古本屋が古写本、古筆蹟を盛んに扱い出した時代のことをこう書いている。

《もとより本屋だから古筆に明るい筈はなし、名物を扱ふほどの者は居ない。それでもかうした業者の中には少々毛色の変つたものもあつた。親譲りの店でない限り大学出の古本屋はさうざらにはない。私の知つてゐるのでは東京の弘文荘、京都の芸林荘位のものだ。弘文主が男前を上げたのは島田乾三郎氏の蔵書を引受けた時からであらうと思ふ さすがに其時の目録は考証の行届いた立派なもので毎号好評を重ねたものだ。然し店を張らぬ変りもの。芸林主は龍谷出で経験なしの店を始めた。大学の編集室にゐたから集つて来るお客、商品を持つて来る同業者が皆先生々々と呼んでいた。丁稚から叩き上げたものとは違つてかういふ連中が本屋を始めて、古写古筆を扱ふのだから何処か抜けたところがあつて実に面白かつた。》

頴原退蔵が「掘出し」という言葉について考証しているのも目にとまった。

《江戸初期の文献にもかなり散見するので、室町時代から今日と同じ意味で一般に行はれて居た事は明かである》

そして「根抜け」「井戸」という言葉との関連を探った後、それらの直接的な繋がりを認めず《掘出しはやはり空しく埋蔵されて居るものを発掘する意が原義であつたらう》とする。

《又世中に侍すかせらるゝ主君おはしまして、金銀をおしまず求給はゞ、よき侍のほり出しもあるべし》(『可笑記』寛永十九年刊)

あるいは

《総じて世に掘出しと云ふを聞くに、道具の位より下直に調へる事をいへり。大いに践しき事なり。掘出しといふは得がたき道具を千金に換へて求めたるをいふなり》(『翁草』巻百四十六)

のように掘出しをするためには金銀を惜しまないのがむしろ本旨であったのだと説いている。

  *

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『佐川史談 霧生関』第四十七号(佐川史談会=高知県高岡郡佐川町甲一三〇一、二〇一一年一一月)を多田昭さんより頂戴した。以前紹介した『香川県の古書店の歴史』を執筆された方である。《牧野富太郎の伝記は私の蒐書の一つの楽しみにしていたもので古本ばかり集めてどうするのかといわれていたのをちょっと形にしました》という手紙が添えられていた(よ〜く分かります、そのお気持ち)。その言葉通り牧野富太郎の伝記を単行本に限って二十二点書影付きで紹介しておられる。これは素晴しい着眼と思う。「おわりに」にこうあった。

《二〇一〇年、筆者は福島県会津市へ旅し野口英世記念館を見学した。そこでは野口の伝記の収まっている書棚に目を奪われた。伝記に関していえば牧野は少し負けていたかなという感想を持った。》

それでも多田さんは気を取り直す。

《俵浩三の「牧野植物図鑑の謎(平凡社新書)も一種の伝記といってもよいもので、牧野の話題は今もなお絶えることはない。これからも牧野への追っかけは続きそうである。》

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by sumus_co | 2011-10-03 22:05 | 古書日録
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