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東京芸者の一日

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『精選名著複刻全集近代文学館 ジョルジュ・ビゴー画 東京芸者の一日』(日本近代文学館、一九七三年五月二〇日三刷)、原題は「LA JOUNEE D'UNE GUESHA A TOKIO DESSINS DE GEORGES BIGOT」(一八九一)。

本日、京都はめちゃくちゃ暑かった。三十五度以上の猛暑日。全国でも三番目に暑かったとか。氷がほしい〜と思っても、先日の涼しさで家庭用かき氷機械を早々としまってしまったので、あとの祭り。

ビゴーがうまそうな氷店の情景を描いている。硝子の器がシャレている。
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明治の氷屋については『明治事物起原』(架蔵はちくま学芸文庫版)が詳しい。幕末には「水屋」というものがあって《白玉を、冷水に浮かしたるもの》を主に屋台で売っていた。横浜開港間もなく米人がボストンより氷を輸入して大きな利益を占めたことがあり、それを見て中川嘉兵衛が天然氷を各地より切り出して横浜馬車道で初めて販売したのが文久二年。『横浜沿革誌』は明治二年六月に開店した町田房造の氷店が最初だとしているが、東京では明治四年に始まり、五年に一般化した。

『明治事物起原』には明治二十四年の氷店の価格表も出ている。ビゴー画の旗に見るごとく「氷水」は一銭だった。「Buvez cette ice cream elle est fondue.」(アイスクリーム啜りなさい、溶けちゃたわよ)というキャプションのようにアイスクリームも売っており、それはもっとも高価な五銭。氷あられ二銭、れもん水二銭、ジンジンビーヤ二銭、上等玉ラムネ二銭、氷コーヒー二銭五厘。

次は客を送り出す場面。「Zeshi irashaï yô……」(ぜし、いらしゃいよ〜)、江戸っ子だね。
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本が出てこないかと思っていると、東京芸者は按摩をとりながらのリラックス・タイムに何か雑誌のようなものを読んでいる。あるいは小説か講談か。挿絵が入っているようにも見える。「指先に目のある盲人らは幸いなり」
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他には踊りの稽古で師匠がホンを見ながら謡っている。
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清水勲『続ビゴー日本素描集』(岩波文庫、一九九二年)には《政治色が少なく、そのためかえって人気があった作品は、ビゴーが一八九〇年から刊行しだした「漫画集」である》《『正月元旦』を皮切りとするシリーズ画集には『国会議員之本』(28点、一八九〇年八月刊)、『警官のたぼう』(25点、一八九一年刊)、『東京芸者の一日』(22点、一八九一年刊)がある。これらの画集は判の小さな和綴で、まずまずの成功を収めたようである。というのもビゴーの毎回の広告で、通常の発行部数のほかに通し番号をつけた特装版百部を印刷しているとうたっているからである》と書かれている。ただしこの複刻版の判はけっして小さくはない(B5相当)。

清水勲『ビゴー日本素描集』(岩波文庫、一九八九年九刷)に長原孝太郎がビゴー宅を訪問した折りの印象が引用されている。

《僕が訪ねた時、彼の部屋には赤い布で腰の辺を纏った裸体の油画などがあったが、その頃の我々には「なんという下品な画を描く男だろう」と思われた。彼が日本の風俗を描いた漫画は外国の人々に売って生活の助けにするために描かれたものだ。無論日本人仲間などには問題にはならなかった。しかし、今見ると、日本人の描いたものよりも面白いものが多いようだ。》

面白いものが多いどころではなく、日本人では描けないリアリティ、目の付けどころがなんとも新鮮だ。ビゴーは昭和二年にパリ郊外のビエーブルの自宅で没した。松尾邦之助が昭和九年にビゴーの旧宅を訪問した記事が『明治文化』第八卷第六号に載っている。

《巴里の近郊とは思へぬ様な寂しいーーが閑静なーー森かげの岡の上にあつたこのアトリエ兼別荘は、まるで日本の家の様で、内部の西洋式な装飾は別として、庭から軒の作りからまるで日本風です。》

《ロンセイ夫人の紹介でビゴーの最後を一緒に暮した寡婦に逢ひました。寡婦の話によると、ビゴーはこの近所の村人から「日本人」と呼ばれ、外出にはいつも着物であり、下駄をはいて村の子供を背におんぶしたりして、まるで日本にゐたときと同じやうにやつてゐたと云ふんです。》

ビゴーは一八八一年、二十一歳で横浜に上陸。諷刺漫画で名を高め、三十四歳で佐野マスと結婚、翌年ガストンが生まれる。三十九歳、マスと離婚し息子を連れてフランスに帰国。仏人女性と結婚して二女をもうけた。二十世紀初頭の巴里には本当の「日本人」も沢山住んでいたわけだが、日本の着物を着て子供をおぶっている日本男児はいなかったろう(絶対いないとは思わないが、まずいないだろう)。人生の不思議を思う。
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by sumus_co | 2011-09-14 21:24 | 古書日録
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