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古賀春江「海」絵葉書。一九二九年秋の第十六回二科美術展覧会出品。神田美土代町一ノ四四美術工芸会発行。

古賀の代表作として知られる作品。ここに描かれている図柄については速水豊『シュルレアリスム絵画と日本』(NHKブックス、二〇〇九年)が詳しく分析してくれているので、主なところを引用してみる。

画面左手の建物の下部、内部図解のような部分についてこう書く。

《平面化された機械的形象に関しては、その影響源をピカビアに限る必要はないであろう。この当時、古賀が確実に見ることができた一例として、カレル・チャペックの戯曲『R・U・Rーロッスムのユニヴァーサル・ロボット』のためのフレデリック・キースラーが制作した舞台装置を挙げることができる。》

コラージュ的な手法については

《モホイ=ナジの作品が具象的なモチィーフを抽象的な図形と組み合わせている点においても、古賀のこの種の作品との類似性を指摘できよう。
 モホイ=ナジの形成写真は、この古賀の絵画が描かれる数年前から紹介されており、これを日本に広めるきっかけとなったのはモホイ=ナジ自身の一九二五年の著書『絵画・写真・映画』である。》

これは仲田定之助『現代商業美術全集第一四巻 写真及漫画応用広告集』に紹介されており、直接的にはそこから古賀が影響を受けたと考える方が妥当であろうという。また古賀と親交のあった坂宗一の回想によってコラージュ的な手法を採用していたことを裏付け、そのソースを特定する。

《子供の化学という薄っペラな雑誌を古本屋の店先で買い集めるのだが、その仕事が彼の仕事にどう役立つかは知らなかったが、古賀さんはこの中から関連なく写真や絵図を切り取って組み合わせることで、一枚の主張をもった作品を創った。これをモンタージュというのだと後になって教えてくれた。》(坂宗一「サーカスの景」)

映画や写真の世界で用いられるモンタージュ(montage)は「はめ込み」という意味。そして速水氏は「飛行船」および「鉄塔」を『科学画報』一九二八年一二月号の八四六頁、「潜水艦」を同誌一九二八年五月号の九〇〇頁、海上に浮かぶ「帆船」を同誌一九二八年五月号の八六七頁、「工場」のような建物を『科学知識』一九二七年一二月号の五五頁に掲載されている写真からそれぞれ取ったと具体的に図版を掲出して指摘しているが、なるほど、これはその通りと納得するほかない。

そして水着女性のイメージである。これはかつてテレビ番組でドイツのグラフ雑誌にのっている女性にそっくりだと指摘され、その番組を見た人が同じ絵柄の絵葉書(「原色写真新刊西洋美人スタイル第九集」青海堂、の中の一枚)があることを知らせてきたという。

速水氏はひとつの結論としてこう書いている。

《グラビア・ページの斬新なレイアウトの出現が、まさに《海》という作品の制作と同時代の出来事であることに注意すべきである。これら同時代のイメージが示す、社会における新たな視覚文化の編成に、古賀の絵画作品は積極的な関わりを持っていたことを推測させる。》

最近の美術界に引き付けて見れば、村上隆や会田誠の仕事にも当てはまるかも知れない。

この絵葉書は二科の出品作六枚セット、袋(「二科美術展覧会出品絵葉書/場内売店」と印字あり)も付いて千五百円だった。セットといっても買った人が適当に選んだもののようだ。個人的な興味として鍋井克之の未所持の絵葉書がまじっていたので買うことにしたのだが、値段の面では、むろん「海」絵葉書をどのくらいに評価するかというのが問題。千五百円は高くないと見た。

そこで先日たまたま遭った生田誠さんに見せてみた。即座に「千円でしょ」とバッサリ。古賀春江の絵葉書は集めてファイルしてあるというので、さすがと感心して引き下がるしかなかったが、泣きそうになって(ウソ)「日本の古本屋」を検索すると、古賀春江絵葉書一枚で千五百円以下の出品はなかったし「海」も出ていなかった。なんたって「海」は代表作だし……ホッとして機嫌が直ったのであった。
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by sumus_co | 2011-07-28 21:33 | 古書日録
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