林蘊蓄斎の文画な日々
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ユウスゲ

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『立原道造全集4』(筑摩書房、二〇〇九年)より、立原のバステル画「山峡の風景1」(仮題)一九三一年夏頃の制作。同全集の年譜によれば、十七歳の立原はこの年の七月に御岳に避暑に出かけ、パステル画をかなり描いている。高校生としては上出来だろう。

昨日の小林勇『山中独膳』にユウスゲが登場する。

《北軽にはユウスゲが咲く。岩波山荘の中にも相当数ある。この花が美味であることをぼくに教えてくれたのは多分、谷川氏だと思う。ユウスゲは夕方咲くのでそう呼ばれるらしいが、本当の学名はセッテイカというのだ。日光の高原にたくさん咲くので、ハイカーがなどがニッコウキスゲといったのが、本名のようになってしまったのだという。しかしぼくはユウスゲというのが好きだからいつもそう呼んでいる。》

小林は混同しているが、ユウスゲとニッコウキスゲは、植物図鑑などによれば、似ていても少し違う。ゆうすげ(キスゲともアサマキスゲとも呼ばれる)は Hemerocallis thunbergii、花は夕方咲いて翌日午前中にしぼむ。にっこうきすげ(禅庭花)は Hemerocallis middendorffii 、朝咲いて翌日の夕方しぼむ。わすれぐさ(萱草、やぶかんぞう) Hemerocallis tfulva も少し違って、八重の花が咲き、万葉集に「忘れ草我が紐に付く香具山の古りにし里を忘れむがため」など何首か見えるように、その花を衣の下紐につけておくと忘れたいことが忘れられるという。谷川氏は谷川徹三、谷川俊太郎の父。

ただ《夕方三時頃になると開きはじめる。翌朝陽が上るとしおれ》という小林の描写からすれば食べているのはたしかにユウスゲであろう。

《さてユウスゲは、熱湯の中をさっとくぐらせる程度のゆで方でよい。長くゆでるとどろどろになってしまう。すぐに水に放し、花の向きを揃えて並べる。皿は染付か白磁などがよい。黄色い花に、ちょっと青い軸がついているのが目にさやかだ。二杯酢または三杯酢。ぼくは酒と酢を半々にして用いている。ユウスゲの花はしゃきしゃきして何ともいえない爽快で淡白のくせに深い味のある食物となる。北軽の夏の喜びの一つだ。この花がだんだん小さくなるころ高原に秋風が吹き出す。
 今日は露伴忌だった。夏北軽に来出してからいつも、ここでこの日を迎える。あれから満二十三年たった。あっという間に過ぎてしまった二十三年のうちにいろいろのことがあった。》

露伴の忌日は昭和二十二年七月三十日。

立原道造「ゆうすげびと」全文、同全集1より。        


 かなしみではなかつた日のながれる雲の下に
 僕はあなたの口にする言葉をおぼえた、
 それはひとつの花の名であつた
 それは黄いろの淡いあはい花だつた、

 僕はなんにも知つてはゐなかった
 なにかを知りたく うつとりしてゐた
 そしてときどき思ふのだが 一体なにを
 だれを待つてゐるのだらうかと。

 昨日の風に鳴つてゐた 林を透いた青空に
 かうばしい さびしい光のまんなかに
 あの叢に咲いてゐた、さうしてけふもその花は

 思いなしだか 悔ゐのやうに——。
 しかし僕は老いすぎた 若い身空で
 あなたを悔ゐなく去らせたほどに!


《悔ゐ》は「悔い」とすべきところか。
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by sumus_co | 2011-07-03 21:53 | 古書日録
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