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田村さんの手紙

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二〇〇二年二月九日の消印がある田村治芳さんの手紙が出てきた。拙著『喫茶店の時代』(編集工房ノア、二〇〇二年)を献呈した、その礼状というか感想。便箋二枚(これは『彷書月刊』編集部で書き地下鉄に乗った、と注記あり)およびその続き原稿用紙五枚。面白く読んでくださったようで、いろいろな個人的な喫茶店との関わり(とくに便箋1にも出ている「ぽえむ」での珈琲修行や経営方針についてなど)が迸った、ある意味とても田村さんらしい手紙だ。

《で、「放浪記」の引用ですが、文庫はいけませんや、で、改造社版のコピーと、文庫のコピーを同封します。なぜ、文庫化の時に、こんなとんでもないバカを林フミ子はしたんだろう、もう、ものの、よしあしがわからなくなっていたとしか思えない/しかも頭っから全部ですぜ、ひでえもんだ、「放浪記カイザン事件」として、だれかきちんと書いてるのかどうか、知りませんが、こないだも森まゆみさんと話してる時にこの話になって、彼女は林フミ子がエラくなって自分で直したんだろう説なんですが、それにしても、悪く直したもんだと思ってます。折角の詩質が、まったく平板なものになってて、しかも今、大体の人が、「放浪記」ってこれだと思われちゃってるのが、情ねえです。ハイ。》

執筆しているときには原本のことなど考えも及ばなかった。とにかく数を集めることだけで精一杯だった、情ねえ。以下、同封してくれた二枚のコピー。最初が改造社版。手紙をもらったときには詩人・田村治芳が憤るのは文庫のギュウ詰めかと思ったのだけれど(この詰め方は紙の節約?)、今、較べながらゆっくり読むと、細かい字句のいじり方が無難な説明へ傾いてキレがなくなっているかもしれない。いちばんハッキリしているのはここ。

《働いて、此パンフレツトを長く続かせたい。》

《働いてこのパンフレットを長くつづかせたいものだと思う。》

これはひどく印象が違う。《ものだと思う》じゃまったくと言っていいほど同人雑誌が出来上がったときの昂揚が伝わってこない。
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コピーと言えば、『古書月報』444号と445号に載った田村追悼文を某書店さんより頂戴していた。前者には稲垣書店・中山信如「あばよ、七痴庵ーー追悼田村治芳兄」、そこには中山氏による弔詞も記録されている。中山氏はその弔辞を遺族のため、とくに中学二年の多感な少年期に父を喪うことになってしまった遺児治郎君のために書いたという。

《見ていたろう。日頃は気づかなかったかもしれないけど、おまえのお父さんは、あのこごえるような寒さのなか、お通夜だけでも四百五十人、翌日の告別式を加えれば、六百人になんなんとする人がかけつけてきてくれるほど、すごい人だったんだぞ、好かれていたんだぞと、言いたかったのだ。これから大きくなって、一人前の大人になってからも、この日の長く果てなくつづく弔問の長蛇の列を思い浮かべては、お父さんのことを思い出してもらいたい。》

次は弔詞より。

《商売がらとはいえ、ななちゃんは読むことじたい好きだった。どんなジャンルのものであろうと、先入観なしに、送られてきた本や雑誌すべてに目を通し、コメントしていた。もちろん、それ以外のものも、よく読んでいた。ななちゃんはその昔、どんなに飲んで帰っても、寝床にはいってちょっとえもページをめくらないと寝つけないんだと、打ち明けてくれたことがあったしね。》

445号には目時美穂「秘密基地の旗」。

《何より、人間が好きな人だった。
 もう田村さんが病気をして、あまり会社に来られなくなっていた頃だろうか。忙しさのあまりぎすぎすしていた編集部に突然ひょろりと現れ、ひとしきり一人ずつの愚痴を聞いてくれたのち、「金なんぞ、どうにでもなる。だけど、人間関係は壊しちまったらおしまいだ」そんな風なことを言った。最後は笑って、一杯呑んで終わりにしたいと。
 金はどうにもならなかったけれど、人間関係は無傷で残った。いや傷だらけかもしれないが、皆で苦労した思い出は、『彷書月刊』で出会った人たちを懐かしい大切なものとして残してくれた。『彷書月刊』を閉める終わりの一杯は、田村さんの自宅で、手料理をつまみにいただいた。優しい味のする料理をつくる人だった。》

『日本古書通信』980号には大場啓志「続・記憶に残る本(11)「罠」村野四郎」に想い出がしたためられていた。田村さんが独立して間もない頃、大場氏は戦前の詩集木山捷平『メクラとチンバ』そして村野四郎『罠』を譲ってもらった。それは五六年後コレクターO氏に渡った。神田古書センターで開催されたユニークな即売展「新人展」に田村さんや森井書店、東城書店、喇嘛舎などと参加にした。

《まだ独立前の石神井書林・内堀弘さんが同世代が中心の「新人展」に興味を持ち、お客として来ていた事は後に本人から伺った。後年、内堀さんは「彷書月刊」の編集にも携わり、田村治芳と深い関わりを持つ事になる。》

『罠』は二十数年を経て大場氏のもとへ戻って来た。ネットに掲載したところ内堀弘さんが購入してくれた。

《古書界でもっともその本を持つに相応しい田村氏の盟友の手元に落ち着いた事になる。
 この縁も古書の持つ不思議な力の一つかも知れない。村野四郎「罠」は、なないろ文庫ふしぎ堂・田村治芳と共に、今後も長く私の記憶にあり続ける一冊である。》

また『第30回本の散歩展』(二〇一一年四月)目録には天誠書林・和久田誠「嗚呼!! なないろさん」が掲載されており、さらに『第89回五反田遊古会古書販売目録』(二〇一一年三月)に月の輪書林さん「なないろ文庫ふしぎ堂追悼小特集」二頁分を出品している。田村さん自身がかつて市場に出した父・田村栄の遺品を含む内容である。

石神井さんから最近もらった手紙にはこうあった。

《七ともしばらく会っていませんが、……まだそんなふうにしか思えないんですね。》
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by sumus_co | 2011-06-19 17:32 | 古書日録
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