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絵のある岩波文庫『絵のない絵本』

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アンデルセン『絵のない絵本』(大畑末吉訳、岩波文庫、一九七一年二五刷)。岩波文庫初版は一九五三年。解説によれば、元版『Billedbog uden billeder』が世に出たのは一八三九年のクリスマス。アンデルセン(アネルセン)三十四歳。このときに第二十夜まで発表され、一八五四年の第三版でその後の作品が追加されて第三十三夜までの今日の形となった。

Originaludgave af "Billedbog uden billeder" 1839.
http://www.hcandersen-homepage.dk/hca_foto_7/MVC-657F.JPG

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挿絵について大畑は《郁文堂の大井敏夫氏の御諒解を得て、道部順先生の御好意によって、先生御所蔵の趣ある影絵をカットに入れることができたことを、ここに深く感謝申しあげる次第である。》と書いている。道部順は一九二九年に『Bilderbuch ohne Bilder 畫のない畫本』というドイツ語版を編集、郁文堂から刊行しているが、そこにこれらの影絵(切絵?)が用いられているということだろうか。

大畑は肝腎の影絵(切絵)の作者が誰なのかは書いてくれていない。ま、無駄だとは思いつつ、いろいろと検索してみたところ、このシルエット絵の作者ではないかと推測できそうな画家を見つけた。Wilhelm Gross(一八八三〜一九七四)。ポーランド生れでドイツで活躍した画家、イラストレーター。断定はしないでおくが、かなり似ている。

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第十三夜の挿絵は本を読む婦人。いうまでもなく『絵のない絵本』は月が若く貧しい絵かきに世界中で見聞したことを語るという構成で、これはドイツのある編集者の窓を覗いた夜の話。二冊の詩集をどう批評するかで編集者や詩人たちが意見を闘わせている。会話の一部だけを抜き出してみる。

b0081843_2052151.jpg


「ぼくはまだ読んでいないんだ。しかし、きれいな装ていだね。内容は諸君はどう思うね?」

「ほめておやりなさい。と言ったところで、この男が詩人としてえらいものになろうなどとは、けっして思っちゃいませんよ。」

「いや、あれはまったくの愚物ですよ!」

「かわいそうに!」「編集長さん、あなたのこのあいだの飜訳に、あんなにたくさんの予約者を集めたのはこの叔母さんなんですよーー」

「この男は、じゅうぶんこきおろして、すこしは腹をたてさせたほうが薬になりますよ」

「われわれはそんな小さい欠点ばかり数えあげないで、よいものをよろこぼうじゃありませんか」

「疑う余地なき才能!」と編集長は書きました。「よくありがちの不注意。時に失敗の詩句を書きうることあるは、二十五ページに母音重複が二ヶ所もあることによって知られる。古人についての研究を勧告する、等々」

文筆家にとっては今もって笑えない笑い話だ。そしてその通り第十三夜は次の言葉で締めくくられる。

ーー天才のほまれはちりあくたのなかに、
  けれども凡庸のわざは空高くのぼるーー
  「これは古い物語、
  けれどもつねに新しい。」

最後の二行はハイネ『歌の本』抒情詩的間奏曲39(Buch der Lieder, Lyrisches Intermezzo XXXIX)からの引用だというので、テクストを探してみた。

Ein Jüngling liebt ein Mädchen,
Die hat einen andern erwählt;
Der andre liebt eine andre,
Und hat sich mit dieser vermählt.
Das Mädchen heiratet aus Ärger
Den ersten besten Mann,
Der ihr in den Weg gelaufen;
Der Jüngling ist übel dran.

Es ist eine alte Geschichte,
Doch bleibt sie immer neu;
Und wem sie just passieret,
Dem bricht das Herz entzwei.

6月12日(日)14:00~ ジュンク堂書店大阪本店3階喫茶コーナーでお待ちしてます!
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by sumus_co | 2011-06-07 21:14 | 古書日録
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