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詩集1999

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田村隆一『詩集1999』(集英社、一九九八年五月二七日、装幀=多田進)。生前最後の詩集。一九九七年、雑誌『すばる』に連載された作品をまとめたもの。著者は同年八月二六日に食道癌のため死去。歿後『帰ってきた旅人』(朝日新聞社、一九九八年一二月)が出ている。

田村隆一の詩集はかつて持っていたこともあったが、たぶん読んではいないだろう。ちょい読みくらいか。エッセイは何冊か読んで面白いと思った。この詩集もエッセイのような語り口だ。だから面白い、というわけでもないのだけれど、面白いと思った「鬼号」部分。

母の七回忌で
墓参をすませるとご住職と雑談した
過去帳を見せてもらうと
江戸期のものはなくて明治以降しか記載がない
明治期ではアメリカで死んだ人もいれば
半助という人がいるのにはびっくりした
あわてて大辞林をひいてみたら
明治期の一円の半分
五十銭のことで
「半助でも二枚ありや結構だ」と鴎外の「雁」のなかの台詞まで参考につけ
  てある
田村五十銭 なんだかぼくの戒名になりそうな名前だ

逗子の小さな漁港で
半助丸という古い漁船があったので
なんとなく気に入って
いっそ助けるなら全部助けてやればいいのに
その漁船の名前が頭にしみこんでいて
たぶん 一日の釣り船の代金が五十銭だったのかと
やっと納得
円タクという東京市内どこへ行くのも一円というタクシーがあって
たいがいアメリカのフォードの車だった
不景気になると半タクも出現したにちがいない

ちなみに『明治東京風俗語事典』によれば「はんすけ」は《五十銭のこと。また大阪では鰻の頭を焼いたのを半助という》。

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『田村隆一全集』(河出書房新社)の内容見本。装幀・デザインは間村俊一。推薦文のなかで谷川俊太郎の《田村さんの朗読はボソボソだったけど、活字になったものには独特の語り口があって、それが詩や散文を親しみやすい「読み物」にしています》には頷いた。善くも悪くも。もう一篇、喫茶店メモとして引用しておく。「いくたびか夏過ぎて」部分。

一九三九年九月一日
ナチス・ドイツがポーランドに武力侵攻
三日 第二次大戦勃発
それからの夏は
「セルパン」というクラシック音楽の喫茶店で
ヴェルリオーズの「幻想交響曲」やドボルザークの
「新世界より」を聴いてばかりいた

そういえば
月刊誌も「セルパン」を愛読したっけ
テニスンの詩の一節から引用した「いくたびか夏過ぎて」をタイトルにした
オルダス・ハックスリーの抄訳もあったし
アドルフ・ヒットラーの「マイン・カンプ」のダイジェストもあって
四〇年代の夏は軍国主義の合唱だったから
昼間は部屋に閉じこもって
雑本ばかり読んでいた 雑本とはヨーロッパ文学のことさ
夜は性行為も知らないくせに吉原や墨[サンズイあり]東の路地をさ迷い歩き
帰りに白地の絣の着物で氷アズキを食べたっけ

「セルパン」は池袋西口の音楽喫茶として有名だった。立教大学の学生やいわゆる「池袋モンパルナス」の絵描きたちがたむろしたという。また雑誌の方は、春山行夫「私の『セルパン』時代」(『第一書房長谷川巳之吉』)によれば、春山が昭和九年から十五年九月の退社までの六年間編集を引き受けたそうで、ハックスリーの名前は出ていないにしても、ヒットラーの『わが闘争』は春山の窓口を通ったものであると明記されている。
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by sumus_co | 2011-06-04 21:58 | 古書日録
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