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茶番

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正岡容『明治東京風俗語事典』(ちくま学芸文庫、二〇〇一年二月七日、カバーデザイン=間村俊一)。

昨日今日といたるところで「茶番」という単語が飛び交っているようだ。しかし「茶番」とはいったい全体どういう意味なのだろう。

ちやばん(名)茶番(一)茶ヲ煎ズル役ノ者。(二)ー狂言ハ、仕形、身振、ヲ以テ地口ノ事ヲスルコト、立チー、口上ーナドアリ(『言海縮刷』明治三十七年)

ちゃばん【茶番】〔茶を煎じる役の意〕その場にある品物を持ち、身振りで、こっけいなことを演じる座興。茶番狂言。「ー劇・単なるー〔=底の見えすいた、ばかげた出来事〕に過ぎない」(『新明解国語辞典第四版』一九九二年六刷、アクセント番号は省略)

「茶番」は漢語ではないようだが『言海縮刷』が《底の見えすいた、ばかげた出来事》の意味を採っていないのはちょっと気になる。明治時代には用例がなかったということかどうか(?)。

江戸時代には「茶」と言うだけで《ちゃかすこと。ひやかすこと。また、その言葉》(中田祝夫『新選古語辞典』)だし「茶にする」と言えば《ちゃかす。ばかにする》(同前)。黄表紙や洒落本で用いられていた。おそらく茶番とも関係があるのだろうが、して、その茶番狂言とはいかなるものや? 正岡容『明治東京風俗語事典』は詳しく図入りで説明してくれている。

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《その場にありあうものを材料として、仕方また手振りで、地口のようなおかしいことを演じる道化狂言。さらに大がかりで歌舞伎を滑稽化し、衣裳道具鳴物で演じ、奇抜な落を付けるものもある。前者は、口上茶番、後者は、立茶番[たちちやばん]。江戸末から明治へ通人や戯作者が集まっては上演した。幇間や太神楽やかっぽれの人々も演じ、のちには本職にちかい茶番師も生れ、深川にはその上手が多く出て、祭礼の余興などを賑わした。
「昔の戯作者は茶番狂言の道楽を競ったもの、中にも松亭金水[しようていきんすい]が不忍の弁天の後(今の観月橋の傍)に住んで居た時、梅亭金鵞、万亭応賀、竹葉舎金瓶、杉亭金升、金浄、梅之の本鶯斎、(金鵞の弟、人情本の画工)鶴亭秀我、外二三の作者や筆工などが毎日集まって騒いで居るので自然に八笑人和合人の様な事になる。毎月仲町通りの某家を借りて茶番を催し、口上茶番、立茶番、三題噺の智慧くらべ芸くらべを演るのを楽しみにして居た。」(鶯亭金升「江戸ツ子のチヨン髷」)》

どうしてどうして「茶番」とは風流なものではないか。鶯亭金升の名前が出たのでその著『明治のおもかげ』(岩波文庫、二〇〇〇年六月一六日)を取出してみると「咄珍社」と題した面白い「茶番」が紹介されていた。

《京都に「咄珍社」と言うノンキ連があった。世話人は錦隣子と言う画家と仙湖という銀行員、この二人が先達になって五新堂と言う雅人も加わり年中気楽な遊びをしていたが、或時連中申し合わせて喧嘩付合いの担ぎ講と言う変った約束をした。それはこの連中が往来で出会った時には必ず喧嘩を始める事、そして人を集めて、宜い時分に双方踊り出して左右へ別れると言う事に決めた。》

《関西で江戸の八笑人、七偏人を明治の世に真似たのはこのトッチン社の連中であった。都々逸家の錦隣子とは世を忍ぶ狂号、実は久保田米僊画伯、仙湖氏は後に上京して雛人形の蒐集に熱中し好古家として知られ、西沢笛畝画伯が二代を継いだ。》

ほほう、京にもありんしたかいの。それにしても、まさにケンカとみせて踊り出す態の今度の「茶番」、根は原発推進派のカンに触った逆襲、カンおろし狂言というようなところではないのだろうか。
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by sumus_co | 2011-06-03 21:17 | 古書日録
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