林蘊蓄斎の文画な日々
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江戸庵句集

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夕方ごろ、装訂家の間村さんより電話あり。

「まいったがな、三百円やって」
「なにがです?」
「あれ、届いてへんの?」
「う〜んと、なにも届いてませんけど」
「そっちは遅いんかなあ、古書通信やがな。昨年の収穫いうアンケート、まいったなあ、まったく、林さんのと同じ本を挙げてんねん」
「え! そうですか、何でしたっけ?」
「江戸庵句集」
「ああ、そういえば、ちょっと待って下さい、今日はまだ郵便受を見てなかった……」
スタスタ、カチン、バタン、ギー、パコ、ガサッ、カタン、パタン、ガチャン、スタスタ、パサ、ビリビリ、ペタリ。
「ええと、十頁か……あ、ありました。ほんとだ」
「まったく大恥やで、ずっと探してて、その前に目録に出てて注文したら外れたんや。それで今度こそはと思て買うたら、林さん、三百円やって、かんにんしてや(笑)、どこのおやじやねん(いささか怒)」
「バツバツ堂(善行堂ではありません)知ってはります、あそこの表の均一に出てました、あのときは他にもええの出てたなあ」
「五千円くらいなら、まあ、そういうこともあるかと思うけど、三百円はあんまりやで」
「籾山庭後の句集だから買ったまでで、それほどの稀書とは思いませんでしたよ、ははは(笑いが止まらない感じ)」
「こら、電話せな、あかんと思てなあ、えらい恥かいてしもた」
「そんなことないですよ。あれをポンと買えるっていうのは、がっちり稼いではるということですがな、さすが間村さん!」
「また今度、呑もな」
「お手柔らかに」

籾山庭後(仁三郎)著『江戸庵句集』は籾山書店(米刄堂)、大正五年二月十一日発行。籾山は明治十一年東京生れ。慶応義塾卒、高浜虚子の俳書堂を譲り受けて出版に乗出し、明治三十八年に籾山書店を創業した。橋口五葉の装幀で知られる泉鏡花『三味線堀』、永井荷風『すみだ川』などを出版した……とこれはネット上にも出ているが、本書の跋によれば、日本橋呉服町に住んでいた十三四歳のころ松岡利紀について漢籍を学び、その家塾(相模国藤沢羽鳥村)に遊学して和歌を詠み文を作った。十五歳で布川照庵(=谷村要助、南新二)について俳諧を学ぶ。号を湟東。十六歳で八世其角堂機一に入門。宝窓機文の雅号を許される。別号を江戸庵。十九歳で正岡子規のもとへ。機一に破門される。しかし子規一派の革新にも着いて行きかね徐々に足が遠のいたようである。

本書には荷風が序文の筆をとって(拝み倒されたようだ)こう書いている。

《籾山庭後君二十余年来俳諧に遊び其の吟咏無慮四万句を越え其の集二十余冊に及ぶといふ。然るに今年乙卯の秋君何事にや感じたまひけん後庭の落葉ともろとも之を一炬に付し僅に二百余句を存せしむ。》

以下、俳句は作ったことがないという荷風が選んだ庭後秀作のいくつか。

 春寒や机の下の置炬燵

 膝へとる軒の夕日や草の餅

 錦手の猪口の深さよ年忘

 朝寒やからむものなき草の蔓

 鶯や篭に足音の寒さかな

 五月雨や人語り行く夜の辻
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by sumus_co | 2011-04-15 21:31 | 古書日録
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