林蘊蓄斎の文画な日々
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あなたはもう忘れたかしら

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ジャック・プレヴェール『ことばたち』(高畑勲訳・注解、ぴあ、二〇〇四年一〇月一〇日、装丁=渡辺和雄)。個人的なプレヴェール年宣言をしたところ某氏よりご恵投いただいた。深謝です。『ことばたち』こと『Paroles』は一九四六年にエディション・デュ・ポワン・デュ・ジューから刊行されたプレヴェールの最初の詩集(著書)である。

プレヴェール(一九〇〇年生)は一九二一年に兵役で派遣されたトルコのイスタンブルでマルセル・デュアメルと出会い、翌年パリに戻ってからはシャトー街(54 rue du Château、モンパルナス駅のそば)のデュアメルの家に転がり込んでイヴ・タンギーと三人でいっしょに暮らした。一九二四年、ブルトンに初めて会いシュルレアリストの仲間に加わったが、三〇年には訣別して三二年に「グループ・オクトーブル」を結成した。その頃からさまざまな雑誌(le Commerce, Bifur, la Révolution Surréaliste, Cahiers GLM /Guy Lévis-Mano , Soutes, les Cahiers d'Art)に詩文を発表していた。一九四五年にルネ・ベルトレ(René Bertelé)が設立したばかりの出版社「Les Éditions du Point du Jour」がプレヴェール作品集として翌四六年にブラッサイの写真を表紙に使って刊行したところ最初の年にいきなり二万五千部を売り、結果的に二百万部を超える大ヒットとなった。上の表紙はガリマールから刊行された一九四七年版をもとにデザインされている(日本語訳を付加)。

プレヴェールの創作の基本はシュルレリスムだろうが、映画脚本(ルノワール、カルネらの作品四十本以上)でも、シャンソンの作詞でも大ヒットをとばすなど大衆受けをする才能をもっていた。シャンソンではいうまでもなく「枯葉」(Les feuilles mortes)、コスマの曲(ブタペスト出身、一九三四年に知り合った。プレヴェールの作詞で五十五曲以上を作曲したそうだ)でイヴ・モンタンが歌い大ヒット(一九四六年、カルネ「夜の門(Les Portes de la Nuit)」挿入歌)。出だしはこうだ。

 Oh! je voudrais tant que tu te souviennes
 Des jours heureux où nous étions amis

中原淳一訳だとつぎのようになる(下記は正確な歌詞テキストではない)。かなり大胆な意訳(というかほとんど創作)で、それゆえに成功している好例だろうと思う。

 あれは遠い思い出
 やがて消える火影の

一九六一年にはゲンズブールが「La chanson de Prévert」(邦題「枯葉によせて」)というパロディ(?)曲を発表している。出だしはそのまま同じ歌詞。

 Oh je voudrais tant que tu te souviennes
 Cette chanson était la tienne
 C'était ta préféré je crois
 Qu'elle est de Prévert et Kosma

おまえはきっと覚えているだろう、おまえが好きだったこの歌、たしかプレヴェールとコズマ(つづりの上からはコスマと清く発音するはずだが、ここではコズマとスが濁っている)の曲を……というくらいの意味(他にもいろいろ訳し方はあります)。「枯葉」にも「おまえが歌っていた歌を忘れない」という歌詞があるのでそこにひっかけた別れの歌。たぶん「枯葉」は耳にタコができるくらい聴いたぜ、という嫌味かな(?)

そしてこの冒頭の歌詞は、別れの曲、追想の曲にはもってこいなのである。

 貴方はもう忘れたかしら
 赤い手拭いマフラーにして
 二人で行った横丁の風呂屋

あるいは

 君はおぼえているかしら
 あの白いブランコ
 風に吹かれて二人でゆれた
 あの白いブランコ

どうです、おセンチな曲調にぴったり。むろんこれらにプレヴェールの影響があるとも思えないし、プレヴェールがさきがけかどうかは分からないけど、つながりがないようでつながっている感じがおもしろい。

“歌”を“映画”に替えると「いつかきみと行った映画がまたくる」「きみも観るだろうかいちご白書を」といった風情になるであった。

 ***

姫路の詩人・大西隆志さんが古本屋をはじめる、というのは善行堂の日記に出ていたが、その名前が「書肆風羅堂」だということが分かった。姫路駅の近くに四月二十九日プレオープンする予定だそうだ。五席ほどのカフェも営業し、展示スペースも確保するという。さらに独自の出版も開始するらしい。また詳しいことが分かり次第報告したいと思う。

風羅は芭蕉が「笈の小文」の冒頭で使っており、風に破れやすいうすもの意、自らを風羅坊とも名乗っていた。姫路の増位山には芭蕉の遺品が納められていた「風羅堂」がかつて存在し播磨の俳人達の活動拠点ともなっていたそうだ。復活「風羅堂」!
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by sumus_co | 2011-04-12 21:47 | 古書日録
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