先日引用した植草甚一『いつも夢中になったり飽きてしまったり』(番町書房、一九七五年四月二五日、装幀=平野甲賀)。筒函の面から裏にかけてサイケな植草甚一が印刷されているのが秀逸。各章の扉には植草作のコラージュがあしらわれている。これがまたいい。
エッセイもいいのだ。たとえば銀座のイエナでアルベール・ド・ルティジーの『イレーヌ』というペーパーバックのエロ小説を買う。その元版は一九二八年にアンドレ・マッソンの版画入りで刊行されたものだった。
《ジョルジュ・バタイユの『眼球譚』が、やはりマッソンのエッチング入りで出たのも一九二八年で、両方とも出版社の名前が入っていない。一五〇部の限定本だったが、十五年たった一九四三年に、パリで古本値が高騰したとき、そんなのを捜しては売って生活していた十八歳の青年がいた。いまは毛色のかわった本を出版するので知られたジャン=ジャック・ポヴェールであるが、彼は『イレーヌの陰部』を見つけたとき、処女出版はこれにしようと決心したくらい、感心してしまったというのである。》
ジャン=ジャック・ポヴェールの名前がひさびさに登場した。バタイユの『眼球譚』出版についてはポヴェール自伝を引用しておいたので参照(ここではオリジナルは一九二九年となっているが、これはポヴェールの思い違いか)。
バタイユとポヴェールの出会い
http://sumus.exblog.jp/13105686
そういえばポヴェール出版の読者葉書も紹介していたと思って捜し出してみると、これは、これは、なんだかこの植草の筒函と似ているじゃないか。
http://sumus.exblog.jp/14089178
植草が手にした『イレーヌ』は Albert de Routisie『IRENE』( L'Or du Temps - Régine Deforges, 1968)だろう。ルティジー、植草は否定しているが、ルイ・アラゴンの変名である。