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良寛遺墨集

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『良寛遺墨集』(根津美術館、一九六〇年五月一五日、題簽=安田靫彦)。印刷はあまり良くないが、良寛の文字をはじめてじっくり眺めたのはこの集によって。じつは一九九五年の一月に某書店の目録で注文したもの。注文葉書を投函後しばらくして神戸の震災の直撃を受けた。いきなりのアポカリプス・ナウ。

記憶では地震発生からおよそ半月ほど経ったある日、家の片付けをしながら傾いて今にも倒れそうな石の門柱に取付けた郵便箱をのぞいた。大きな封筒が入っていた。開けてみると、注文したことすら頭からすっ飛んでいたが、この一冊が入っていたのである。記念すべき地震後古本第一号だった(ただしそれ以前に路上で拾った本がある)。

文政十一年(一八二八)十一月十二日(新暦では十二月十八日)、三条大地震が発生した。この地震のために越後地方では死者千六七百名、負傷者千四百名、倒壊家屋一万三千余軒、焼失家屋千百七十軒、半壊家屋九千三百余軒に及んだ(『良寛全集 別巻1』野島出版、一九八一年より)。

良寛は「地震後作」「地震後詩」を著してこの災害を人心のおごり、ゆるみが招いたものと戒めているが、「地震後詩」の最後の八句に見える、

 土上加泥無了期
 大地茫々皆如斯
 吾独鬱陶訴阿誰
 凡物自微至顕亦尋常
 這回災禍尚似遅
 星辰失度何能知
 歳序無節已多時
 何必怨人咎天効女児

《這回災禍尚似遅》などは厳し過ぎないだろうか。それよりも地震の後に出された山田杜皐宛の手紙の文面の方が好きだ。

 地しんは信[まこと]に
 大変に候 野僧草庵ハ
 何事なく親るい中
 死人もなく めで度存候
 うちつけにしなば
 しなずてながらへて
 かゝるうきめを見る
 がは[わ]びしさ
 しかし災難に逢
 時節には災難に
 逢がよく候 死ぬ時節
 には死ぬがよく候
 是ハこれ災難をのがるゝ
 妙法にて候
       かしこ
       良寛

この書翰、「没後一七〇年記念展「良寛さん」」(京都文化博物館、二〇〇〇年一一月)に出ていたらしいから実見しているはずだが、どんなものだったかすっかり忘れてしまった。『良寛遺墨集』には採られていない。この身勝手な感じがなんとも良寛さんらしい。しかし三条へ出向いて惨状をつぶさにしたときには涙もろい老人に変ってしまう。これもいい。

  三条のいちにでて

 ながらへむことハおもひしかくばかり
   かはりはてぬるよとはしらずて

 かにかくにとまらぬものはなみだなり
   人のみるめもしのぶばかりに

涙を流し、おろおろ歩き……である。
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by sumus_co | 2011-03-12 21:33 | 古書日録
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