林蘊蓄斎の文画な日々
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阪口五峰

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石川淳『諸國畸人傳』(中公文庫、一九七六年)の最後に「阪口五峰」が取り上げられている。安政六年に越後国中蒲原郡に生れ、大正十二年に東京で歿した。《五峰とはなにものか。このひと、政事にもかかはり、新聞にもたづさはり、また文墨にもあそんで、好んで詩をつくり、いささか書を善くする。鬱然として郷曲の雄であつた》そうだ。県会議員、新潟新聞社長、新潟米穀取引所理事。新潟新聞の主筆を勤め同郷でもあった市島春城と親しくつきあった。ここに印章の話が出てくる。

《五峰、春城、印人濱村藏六、相会して、談蔵書印におよぶ》《印のはなしになると、世にきこえた鶏血石歌のことにふれないではおけない。越後の漢医三浦桐陰の所蔵に、高芙蓉の刻した印が二つあつた。桐陰は一を五峰に、一を春城に贈つた。五峰のは印文に鶴鳴丁九皐、春城のは滄浪としてあつた。しかるに五峰はすでにその一をえて、さらに他の一を望んだ。すなはち、春城にむかつて露骨によこせといつて迫つた。》

春城はいつも物に執着しない五峰が印にかけては猛烈な執著をしめすので根負けして割愛した。ただし春城がかねて手に入れていた鶏血石の印三十顆について詩をつくるという条件を五峰に課した。五峰は開会中の議会をほったらかしにして呻吟、なんとか七言三十四句を得たという。

印の魅力というのは余人には推量しがたいものがあるようだ。文中「印人濱村藏六」とは五世であろうか。芥川龍之介の蔵印のなかに上の藏六作があった(『芥川龍之介集』新潮社、一九二七年)。何と読むのか? 出典があるのだろうか。右上はフルトリすなわち小鳥か。右下はシヨ(小魚)、左上は……ちと難しいが、ヒヨウ(ふくろ、または、つつむ)だろう、左下は柳だ。

[ご教示によれば出典は石鼓文「其魚隹可。隹鱮隹鯉。可以囊之。隹楊及柳」とのこと。フルトリではなく維(ひも)らしい。同じ文言は蘇軾の詩「石鼓」にも出ており、どういう意味かよく分からんと蘇軾は書いている。どうやら君子が魚を穫っている情景のようだ(石鼓文)。いずれにしても印文は柳で魚をつつむということだろう。]

なお、五峰は坂口安吾の父である。
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by sumus_co | 2010-12-14 22:00 | 古書日録
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