林蘊蓄斎の文画な日々
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瓶史 昭和九年新春特別号

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『瓶史』新春特別号(去風洞、一九三四年一月一日)。発行人は西川一草亭。花道去風流家元七代。一九三〇年一月に社報「去風洞社報」を季刊誌『瓶史』と改題して発行した。一草亭の作品も掲載されてはいるが、この号への寄稿家は室生犀星、谷川徹三、橋本関雪、薄田泣菫、高安月郊、板垣鷹穂らを数え、文芸全般にわたる高踏的な雑誌として編輯されているようだ。

この号中に「文人多僻」と題された鉄斎翁印譜が八頁あり、続く篆刻家の桑名鉄城(くわな・てつじょう)「篆刻と人」(談話筆記)には鉄斎の思い出や山陽の印のことも述べられている。

《山陽も亦娯しみのために自刻して居ります。たまたまにはその友人でもありました本願寺の雲渓上人のために刻して居ります。山陽は篆刻のことを山本良山にならつた様でありまして良山へあてた山陽の手紙の中にその事が出て居ります。良山はその当時の篆刻に於ける専門家でありました。小竹も自ら刻して居ります。小竹は又山陽の印もほつて居ります。今試みに山陽の印をほつた人をあげますと趙陶齋、高芙蓉、赤松魚石、篠崎小竹、濱村蔵六、細川林谷、阿倍井良山、頼春水、頼杏坪、頼立齋などがあります。まだその外にもありますが、之等が著名な人々であります。》

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これは『富岡鉄斎』(集英社、一九七六年)に載っている鉄斎の「自刻印譜」より。石よりも木の印の方がいいし、文字だけよりやはり絵と文字の組み合わせの方がいい。

鉄城は鉄斎よりも二十七歳若く、晩年の鉄斎に可愛がられたようだ。むろん鉄斎の印も彫っている。

《富岡さんについて思ひ出します事は、印が出来るごとに捺し始めだと云ふて画を呉れられました。自身の画についてはそれが如何程の価になつてるかは少しも知らない人でしたが、ひとに対しては別に色々の思ひやりがありました。それは篆刻の方は貧乏して居ると思つておゐでたからです。》

鉄城の妻や娘が死んだときにも鉄斎は絵をもってきたという。さらに面白い絵ができたから、注文主には渡さないで《俗物で画がわからん。俗物のところよりこゝにおいてもらはふ》といって置いて行ったという。そうとうな厚遇である。自分の絵の値段の分からん爺さまがやることじゃない。

また別の頁には、菓子舗として名高い虎屋の主人黒川正弘が「虎屋の話」という文章を寄せているなかに、鉄斎の臨終の様子が出ているので紹介しておく。

《翁とは非常に親しくして頂きましてその臨終の少し前にも私は参つて居りました。恰度大晦日でしたが、その午後なくなつたのです。午前中には大変お元気でしてお医者さんが見えてましたが、翁はその中でおそばの頂き方の講釈を初めて居られました。そばは嚙まずに喰べなければならないとか、そばの汁は調味の仕方が六ケ敷しいとか云ふ様なことでした。このお話を側で拝聴して居りました私は翁が大変お元気なのに安心して、且つは家の方に用事がありましたので一寸帰宅したのでありますが、私が家について間もなく御他界されたとの御電話がありました。》

富岡鉄斎宅は室町通り一条下る、虎屋は一条通烏丸西入。百五十メートルほどか。歩いて一、二分だろう。なんとも幸せな最期である。

柳翁にお教えいただいた「山碧水明」は「白鷹 山碧水明」(醇味緑酒 生酛純米大吟醸)のラベルに見えるものであろうか。
http://nihonshu-aiinkai.com/img375.jpg

『鉄斎研究』73号が鉄斎用印大成ということで、これは求めなければ!
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by sumus_co | 2010-12-10 20:44 | 古書日録
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