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独逸社会主義者 絵葉書

b0081843_20374570.jpg

黒岩比佐子『パンとペン』、書斎整理のドサクサにより、いまだ読了していないが、調べの行き届いた丁寧な記述に、こちらとしてもいろいろひっかかりを見つけて楽しんで居る。

《堺たちは一周年に当る一九〇四年十一月十三日発行の第五十三号を記念号とし、発行の当日に同志の小園遊会を催すことを『平民新聞』で予告した。このとき、一周年記念として、マルクス、エンゲルス、ラサール、ベーベル、クロポトキン、トルストイの肖像入り六枚一組の絵はがきの発行も計画されたが、これは実現して、希望者に頒布している。》(p132)

とあるので、ひょっとして小生の絵葉書函にある上の二枚がそれではないかと、一瞬、喜んだが、カール・リープクネヒトでは時代が合わない。Makinoさんご指摘のようにこの写真はどうやらヴィルヘルム・リープクネヒトで、それなら上の写真で裏になっている「独逸革命家ラツサール」とともに時代は合う。そこで、ネット上に平民社の絵葉書は出ていないかと探してみると、ちゃんとアップされている方がおられた。

http://blog.goo.ne.jp/1971913/e/76363ea92efbd563dfee78f10960bacc

葡萄の飾り模様のついた端麗なデザイン(時代はずっと後だが岩波文庫の縁飾りを連想させる)。おそらく小生所蔵の絵葉書は大正後半だろう(文面スペースが半分に広がっているし)。ちなみに切手面の文字は以下の通り。「THRUOGHOUT」は綴りが間違っている。

 FAMOUS [鷲の絵]TS
 POST CARD
 THRUOGHOUT THE WORLD
 PD. TAZAWA SEIFUDO & CO HONGO TOKYO JAPAN.

ロシア革命後にはこんな絵葉書が堂々と(?)売られていたようだ。

b0081843_20375852.jpg

それから「〝犬〟と呼ばれた尾行刑事」(p189)には《堺や他の人の書く文章には、しばしば〝犬〟という言葉が出てくる。しかも〝二本足の犬〟とか〝話をする犬〟などとからかうように書いている。これは、私服の尾行刑事のことだ。》とあり、尾行刑事たちの逸話がいくつか紹介されている。この例に限らず犬はののしりや蔑みの言葉として古くからよく使われる。

ペルシャでは「ペタレザック(きさまのおやじは犬だ)」という悪態があるらしい(足利惇)。中世のベネディクト会修道院の写字生は言葉を発してはならないので、意志の伝達は仕草で示したが、異教徒の作品を指すときには犬のかっこうをして身体を掻く真似をしたのだという。また、台湾が日本の敗戦で解放された後に外省人が大陸からやってきた。台湾では「犬が去って豚が来た」という言葉が流れたそうだ。

昔、装幀に魅かれて百五十円で買った『堺利彦全集第一巻』(中央公論社、一九三三年五月一〇日、装釘=小川芋銭)、これが読み出すとすこぶる面白かった。けれども半分くらいのところで放り出して何年も過ぎてしまった。黒岩さんの本が出たのでまた読んでみる気になっている。ここに収録されている萬朝報時代の文章のなかに「犬を飼ふ事を廃すべし」(明治三十三年八月二十五日)がある。内容は金持に飼われて貧乏人に噛みつくような飼犬制度を廃止せよというもの。尾行刑事とは関係がないようだが、さすがにこの記事にはかなりな反論があったようだ。それらを犬族一同の名義で「犬白書」として八月二十九日に掲載している。

《予が「犬を飼ふ事を廃すべし」といふ一文を載せたるに対し、犬共より左の如く決闘状を寄せ来れり、其文甚だ巧妙にして其情亦やゝ憐むべきものあり。然れども固より畜生の分際として人間社会の条理を解すべくもあらず、予は次号の紙上に於て委く是等犬共に諭す所あらんと欲す》

犬共はいろいろと言い分を並べ立てて、最後にこんなふうに脅し文句を吐いている。

《若し先生に於て、飽までこの飼犬廃止説を御主張あるに於ては、われわれ一族の安危今此秋に候故、一同敷居を枕に討死の覚悟を定め、府下三万の飼犬芝山内に勢揃ひの上、貴宅まで推かけ可申、其際は鋼鉄の臑当御準備の上御面談可有之候。掉尾百拝。》

もちろん、こんな脅しに屈するはずもなく(笑)、金持ばかりに尻尾をふらないで何人に対しても従順になれば赦してやろうなどと書いているのだ。じつはこの迷惑犬にはモデルがあった。

《福岡の黒は、人をほえたり郵便脚夫にくひついたりして、多く与に迷惑をかけて、終に予をして飼犬廃止論を書かせたやつである》(三十歳日記)

要するに飼い主の育て方が悪かったから、そうなっただけであろう。たぶん堺のことだから甘やかしたに違いない。口絵写真を見ていると、その黒が写っていた。福岡日日新聞記者時代。左から堺、黒、高野拝陽。いかにも可愛がっているようすだ。
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by sumus_co | 2010-10-20 22:06 | 古書日録
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