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パリに死す 評伝・椎名其二

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蜷川氏の著書『パリに死す 評伝・椎名其二』を取り出してみた。椎名がマビヨン通りの物置のような地下の一室に住み込んだのは、戦時中に敵国人であるため収容所に入れられ、戦後《ある事情で住居を失った》ため。一九四六年から五六年までマビヨン通りでフランス人の妻とともに暮らしたという。かつてルイ十四世の厩舎だった場所。大工、厚紙工、ランプ工、金箔工などのアトリエが並び、熊洞(ラ・グロット・デ・ズルス)と近所の人にも呼ばれていた。

《戦後、妻子をかかえて食うに困っている頃、四〇年来親しかったヴラン書店の主人の姿が頭に浮かんだ。本を買えなくなった第二次大戦後、支店や倉庫からさえ勝手に本を探し出し、いく週間も貸してくれた主人である。彼の紹介でソルボンヌ大学教授数人を知り、なかでも労働運動史家マクシム・ルロワ教授とは親交を重ねた。またブラン氏自身も老子の研究家で、東洋関係の書物も発行する出版社であった。》

ヴラン書店はソルボンヌ広場の Joseph Vrin である。個人的には、淀野隆三が日本から本を注文していた店として親しみがある。昭和四年ごろの淀野日記のなかに郵便為替でヴラン書店へ送金した領収書がたくさん挟んであった。半端じゃない額の請求書もあった。

椎名はヴラン氏に製本屋をはじめるから金を貸して呉れと頼み、一万五千フランを出資してもらった。その金で製本道具を買い求め、自分の本を崩しては製本の方法をひとりで学んだのだそうだ。ヴラン書店の本を修理したり、客を紹介してもらったりして暮しを立てたという。本書のカバー写真が椎名の製本した書物とのこと。

椎名のパリでの暮らしぶりは本書で読んでいただくとして、すっかり忘れていたコピーと蜷川さんからの葉書が挿んであったのを紹介しておく。コピーは『PAVONI』という西宮で大石輝一が発行していた刊行物の第三号(一九五四年五月)に載っていた記事。部分的に引用する。

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文中、住田良蔵とあるのは住田良三だろう。住田については「水木しげるの大叔父住田良三パリに死す」(神保町系オタオタ日記)が詳しいが、この写真がパリで客死した住田の葬儀に集まった人々だというのである。記事を書いているのは新井完(あらいたもつ)。姫路市五軒邸に生まれ、東京美術学校を出て帝展に出品していたが、昭和十一年の松田改組を機に金山平三とともに不出品を表明し、以後中央画壇には一切出品しなかった。大正九年から十一年まで欧州に滞在した。

この写真で右下隅の藤田嗣治の横にいるのが椎名其二ではないかと思って、蜷川さんに質問をしたようだ。丁寧なご返事をいただいている。

《お送り下さった写真は椎名其二氏の若い頃と似ていますが、次の事情ではっきりしません。というのは椎名氏は一九二一年、(いつか不明ですが)ベルギーに行き、ブリュッセル近郊で働きながら翌年ロンドンからの船便で日本への帰国のために待機しておりました》

今、見るとどうも椎名ではないような気がする。

結局、椎名は半地下になった「熊洞」暮らしで体調を崩し、一九五七年に妻子と別れて帰国するのだが、三年ほどでパリへ戻り、オンドヴィリエ村で余生を送った後、一九六二年パリ市内の病院で息を引き取った。七五歳。
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by sumus_co | 2010-10-18 21:55 | 古書日録
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