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パノラマ「セダンの戦い」

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『浅草十二階』では「パノラマ」についてもかなり詳しく検討されているが、『書影でたどる関西の出版100』にも橋爪節也さんが大阪初のパノラマ館について書いてくださった。

《日本最初のパノラマ館は、明治二十三年の第三回内国勧業博に登場し、半月後に浅草公園奥山に「日本パノラマ館」が建設された。さっそく大阪にも翌明治二十四年、難波の阪堺線駅前にパノラマ館が開館する。現在の高島屋の道路を隔てた東側。出し物は、普仏戦争でプロイセン王国がフランス軍に完勝し、ナポレオン三世を捕縛した明治三年の「セダンの戦い」である。》

《翌明治二十四年、このパノラマ案内の一枚物が発売された。その編集兼発行者の園田一郎は、冊子の種子島時中と同じ鹿児島県士族で難波新地六番丁七番地に寄留。印刷者は東区南久宝寺町二丁目四十五番邸の水口龍之介。観客席から四周を眺めるように円形にイラストが描かれ、「パノラマ観覧順序」のガイドや、戦闘の経緯も画面に付された番号と照合して分かりやすい。冊子の定価五銭に比べて一枚物は弐銭で安く、観覧記念のお土産に最適だったろう。》

なるほど浅草の次に難波・千日前というのはこの時代の流行の尖端がやってくるお定まりのルートだったか。ただパノラマが最初に興行されたのは明治二十三年の第三回内国勧業博ではないという説もある。下岡蓮杖は懐古談『写真事歴』(写真新報社、一八九四年)でこう述べている。引用は木下直之『美術という見世物』(平凡社、一九九三年)より。

《後、閑を得て函館戦争及び台湾戦争の図をパノラマ画に描き、後年(明治九年)東京浅草に場を開きて展覧せしめたり。是れ我国(此パノラマは故ありて守田宝丹の所有となり、当時九段の遊就館に保存す)パノラマの権輿にして》

権輿(けんよ)は 「物事のはじめ。はじまり。起こり」。「台湾戦争図」は一九九一年に遊就館の収蔵庫で発見されて蓮杖の言葉が裏付けられた。しかもその長さ六メートル近い作品二点よりもずっと巨大な油絵をそれ以前に蓮杖は描いたことがあったという。万延元年(一八六〇)に来日した米国人ショイヤーに依頼され、長さ三メートルの作品八十六枚ひと続きを描いたが、それはウィルソン(ウンシン)という英国人の手によって一八六二年にロンドンで日本の風景パノラマとして公開されたそうだ。

また明治十一年にはやはり蓮杖が「蒸汽車雛形」という動くパノラマ(絵が動く)を企画していたらしいことも分かっている。木下氏は《そもそも日本の絵画とは大きなものであった。掛物にされた小画面が好まれる一方で、屏風、襖絵、壁画、絵巻と、大画面も当り前に存在している》と書いているが、たしかに襖絵などはパノラマの一種と言っていいかもしれない。

また自然の景観を前にして「絵のように美しい」とか「パノラマのようだ」と形容してしまうのは、美の観念においては芸術(この言葉が適当かどうかは別として)の方が自然よりも上位に位置していたためではないだろうか。リンゴはそこにあっても人はリンゴだと思うだけだが、もしスーパーリアルなリンゴの絵があれば人は驚く(これほんと)、そいうことだろう。ただし、セザンヌのリンゴの絵があっても驚く人と驚かない人がいるような気がする(体験的に)。驚くことが感動なのかどうかは微妙かな……。

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『書影でたどる関西の出版100』創元社より十月初旬刊行!
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by sumus_co | 2010-09-18 21:54 | 古書日録
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