林蘊蓄斎の文画な日々
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巴里の横顔

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藤田嗣治『巴里の横顔』(実業之日本社、一九二九年五版)の口絵「アトリエの著者夫妻」。妻はユキことリュシー・バドゥーである。「1927」というサインがあるところからすれば、モンスーリ公園(Parc Montsouris)のそばの家だろうか(この家の口絵写真も載っているが)。壁に留めてある手作り人形がワンポイント。

《セーヌ河岸の古本屋は、亦、実に気まぐれな爺さんが多いので、厭な日には、箱に錠をかけたまゝ出てこないし、その代り、気が向いたら、日曜でも出てくる。だから、今日面白い本をみつけて、明日買ひに行つても大抵はしまつてゐる。その代り、毎日変つた本屋を見る事が出来る。

 それもノートルダムの下から、ルーブルにかけての河岸が、一番多い。何故かといふのに、サン・ミツシエルに、ソルボンヌ大学が、控え[ママ]てゐるからだ。
 昔は河岸の古本屋でも、沢山掘出しものがあつたさうだが、今では殆んどないといつてよいだらう。
 ナポレオン一世の蔵書とか、モリエールの初版本とか、見つけた人もあるときくが、それも昔のことだらう。
 我々に面白いのは、演芸画報の口絵なんかを一枚づゝ大事にぶらさげて一枚一円などゝいふ値をつけてゐることだ。
 チヤチな三色版を骨董扱ひにしてゐるところが愉快である。》

いつの時代も掘出しは「もうない」のかもしれない。他にもいろいろ面白い話がのっている。パン屋は夜の十二時から仕事にかかって朝の五時頃から店を開ける。パン焼き窯はたいてい地下にあって、オガ屑をつかって焼いているという。

人物評も手加減なし。ミスタンゲットやダミヤも出ればキキも出る。

《  キツキ

 キツキは、ダミヤと同じタイプの面白い性格の女である。
 今は、写真家マンレーの妻君となつてゐるが、其の昔は、モンパルナスの花売りで、貧乏な生活をしてゐたのを、マンレーがいろいろと面倒を見て、妻君にしたのである。
 夜明しで、酒も呑むし、牛の様な声を出してどなるし、男とも、平気でねるし、マンレーは、それを見ても、うつちやらかしてゐる。》

なんとモディリアニは大便を新聞紙に包んでベッドの下に置いていたそうだ(当時は一階または最上階にしか便所がなかったためそこまで捨てにゆくのが面倒で)。それも一月間もつぎつぎと。

当時のフランスには二千人の日本人がいて、そのうち三百人が画家だった(これはどのくらいあてになるかは分からない)。一番の古株は滯仏六十年で仏人女性を妻にし旅館を開業している諏訪さん。元陸軍大尉。ユーゴーに可愛がられた。滯仏二十年が漆工の菅原さん、指物師の稲垣さん、骨董屋の内藤さんなど。内藤さんは文部省留学生としてパリへ来て、そのまま居着いた。「宝の山」という日本美術骨董店をエコール・デ・ボザールの近くに開いている。浮世絵などとともに、醤油や鰹節、佃煮、日本の書籍も売っている。日本料理店は「ときわ」「不二」「日本人倶楽部」。セーヌ河岸に青山という画商、グラン・ブールバールに伴野のという輸出入商。ただしみんな日本人を相手に商売をしている。外国人を相手にしているのは藤田自身と早川雪洲くらいだろうと自慢する。



なんとか個展の案内葉書の宛名書きを終えて投函した。葉書ご希望の方は「お問い合わせ欄」よりお申し付けください。うちには届かないぞ、と言う方もどうぞ。
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by sumus_co | 2010-09-14 21:08 | 古書日録
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