林蘊蓄斎の文画な日々
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文学附近

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鈴木信太郎『文学附近』(白水社、一九三六年一〇月八日、装幀=高畠達四郎)。この本のことは『sumus』八号に書いて『古本スケッチ帳』(青弓社、二〇〇二年)に収めた。これは裸本だが、題名と著者名の刷られたパラフィン・カバーが付いている。

久しぶりにパラパラめくっていて、次の箇所に目が釘付けになった。「書斎の話」で辰野隆の書斎「酔眠巣」を描いたくだり。

《三角と矩形を継ぎ合わせた恰好の、奇怪な広い部屋で、全壁面に作られた書架と、室内に凹凸する本箱とには、窮屈さうに仏蘭西の文学書が詰められ、その他卓子にも椅子にも床にも、唯一面に本が堆積されてゐる。その足の入れ場所もない部屋の一隅に、殿様の坐る上段の間のやうに一段と高く、畳が四、五畳敷かれてゐる。畳の真中に炬燵が切つてあつて、火桶は遙か縁の下にあるから、湿気はぬくぬくと腰のあたりに心地よく及んで、まるで温泉にでも涵つてゐる感じだ。》

そして問題はこの次、この書斎に鬼気迫るときがある。アロイジウス・ベルトランの言う「火蛇の精の嘲笑が聞こえる」という感じが、

《ぞくぞくと頸筋や足の裏から浸み透つて来る。これは書斎の縁の下に、丈余の青大将が三匹とぐろを巻いてゐるからだ。その時恐らく、蛇は赤い舌から火焔を発して、ちろちろと床を舐めたのであらう。
 何故蛇を飼つてゐるのか、理由は知らないが、蛇のお陰でこの部屋だけには、本を齧る鼠が出ない。》

『ちくま』の二〇〇九年十二月号に猫が古本屋に似合うと書いておきながら、ネズミ除けの効用について一言も触れなかった。それが残念で、いずれ増補したいと思っているのだが、そのひとつには北宋の書家・詩人の黄庭堅(1045-1105)「乞猫」という詩がある。

  秋来鼠輩欺猫死
  窺甕翻盆攪夜眠
  聞道狸奴将数子
  買魚穿柳聘銜蝉

猫が死んでしまってから鼠がカメをのぞき、お盆をひっくり返す(たぶん本も齧っただろう)。魚を柳の枝に通して新しい猫を迎えたいというような意味。なかなか軽妙な味の佳作と思う。

同じような効用が青大将にもあるとはまったく思いつきもしなかったが、ウィキにもこう書かれている。

《農家ではネズミ捕りとして昔から大切にされてきた。鶏卵も食べるため養鶏農家では卵泥棒として嫌われるが、鶏の餌を狙うネズミを好んで捕食する傾向から、養鶏業者に有益な面もある。》

これはぜひ補足しておきたいものだ。小生も田舎育ちなので、子どものころには屋敷の周辺でよく青大将を見かけた。たしかに祖母などはそっとしておけと言っていた。
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by sumus_co | 2010-08-01 20:48 | 古書日録
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