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たのしみは

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『橘曙覧歌集』(藤井乙男編、文献書院、一九二七年一〇月八日)。古本きんどう市にてゴット。拙ブログを注意深くご覧いただいている方は「ははん」と思われるかもしれない。先日アップした書棚に上坂紀夫『清貧の歌人橘曙覧』(フェニックス出版、一九九六年)が差してあった。この本は福井の知人からもらったもので、そのとき橘曙覧を初めて知ったのだが、その人は惜しくも早逝してしまった。才能あるアーティストだった。

橘曙覧(1812-1868)は福井の旧家の長男に生まれ、幼くして母を十五で父を喪った。厭世的になり、儒や仏に走ったが、徹底できなかった。結局は家業を弟に譲って隠遁した(ただし富商の娘を嫁にもらっている)。藤井乙男はこう書いている。

《名利を絶ち貧に耐へる努力の外は、彼は全く自由人であつた。一面学者として一面芸術家として彼の大きな性格は何の渋滞もなく築きあげられていつた。
 彼の学統は宣長を継承してゐる。後年山室山に宣長の墓を展して
 おくれても生まれしわれか同じ世にあらば沓をもとらまし翁に
と詠じてゐる。純真の人であり情熱の人である彼は宣長の学説に終始したともいへる。これを批判し訂正するやうな根本的な研究は出来なかつた。それに時代もすでに思索より実行の時代になつてゐた》

また本人も「ゐろり譚」にこう述べている。

《自分も五尺の身、人に扶持せられず、寝たければ寝、食ひたければ食ふ。千里を行かうと思へばいつでも行ける。誰一人妨げる者はない。読書を欲すれば終日窓を閉ぢ、山水に語らひ、花鳥に交り、一切の自由を得てゐる。たゞ一ト月に一二度米櫃の底が鳴るのが苛責のせめだ》

清貧というかワガママなだけのような気もするが、ある意味、身につまされる。内田百閒だって教師をやってたし植草甚一だってサラリーマンをやっていた。ただ曙覧のような暮らしぶりの人間が特別かというとそうとも思えない。曙覧には歌が、正岡子規が《実朝以降只一人》の歌人だと賞讃したその歌があっただけであろう。

 たのしみは珍しき書人にかり始め一ひらひろげたるとき

 たのしみは物をかゝせて善き価惜みげもなく人のくれし時

 たのしみは朝おきいでゝ昨日まで無りし花の咲けるを見る時

 たのしみは尋常[ルビ=ヨノツネ]ならぬ書に画にうちひろげつゝ見てもゆく時

 たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき

 たのしみは書よみ倦るをりしもあれ声知る人の門たゝく時

 たのしみは人も訪ひこず事もなく心をいれて書を見る時

 たのしみは数ある書を辛くしてうつし竟[ルビ=ヲヘ]つゝとぢて見るとき

 たのしみはふと見てほしくおもふ物辛くはかりて手んいれしとき

 たのしみはそゞろ読みゆく書の中に我とひとしき人をみし時

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国立国際美術館で「束芋:断面の世代」展を見て、体感四十度という感じの道路を歩いて Calo Bookshop & Cafe / Calo Gallery へ。一息ついた。井村一巴展「finally we are no one」開催中。
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by sumus_co | 2010-07-23 21:11 | 古書日録
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