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みづゑ 761号

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『みづゑ』761号(美術出版社、一九六八年六月三日、表紙=池田満寿夫)。洲之内徹が「作家登場・長谷川潾二郎」を執筆している。そこに掲載された「猫のいるアトリエ」。これは気まぐれ美術館の展覧会でおなじみの片方の髭のない猫であろうか。それならば太郎という名前で、この文章によればすでに死んでいる。

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また『絵のなかの散歩』(新潮社、一九七三年)には「長谷川潾二郎「猫」」というエッセイが収められており、『みづゑ』の原稿と重複する部分も少なくないけれども、両方読むとちょうど補い合ってさらに面白い。『みづゑ』では猫の絵を譲り受けたことは出て来ないが、『絵のなかの散歩』では片方しか髭のないことは分かっていながら、それを長谷川に言うと、もう片方の髭を仕上げるまで絵が手に入らないだろうから、何も言わずにもらってきたとある。髭を描くのに何年もかかるかもしれないというのだ。そのときに「どこへも売りません」と約束して、その通り洲之内コレクションとして宮城県美に入っている。

もう一篇、「無学のすすめ」(『気まぐれ美術館 セザンヌの塗り残し』新潮社、一九八三年)という長谷川ファミリーと北一輝の関係について書かれたエッセイもある。

新潟新聞の主筆だった小林存の伝を読んだことから話を起して行く。日本海海戦のときに旗艦三笠が発した電文「天気晴朗ナレドモ浪高シ」を新潟新聞はロイターから買っていた、そのことに洲之内は驚く。当時は各社ともロンドン通信(ロイター)から情報を入手していたが、小林存によればその電報料が月に千円(明治三十八年)にも達したそうだ。当時の千円は今のいくらぐらいか定かではないが、さしずめマイケル・ジャクソンの父親のインタビュー代金に匹敵する金額ではないだろうか。

そして新潟ということから松本健一『若き北一輝』の話へ移り、そこに長谷川潾二郎が登場しているのを見てまたもや驚く。潾二郎の父・長谷川清(淑夫)は佐渡の出身で佐渡中学で教師をしていたときに北一輝を教え、思想形成に大きな影響を与えたというのだ。洲之内はこのことを潾二郎に話して、北一輝の想い出を聞き出している。詳しくは洲之内エッセイを読んでいただきたいが、潾二郎という難しい名前は祖父の医師で漢学者だった葛西周禎がつけたそうで、本人はこの字のためにかなり苦労したらしい。

『みづゑ』稿によれば田村泰次郎から現代画廊を受け継いだばかりのころ、洲之内は額縁を探しに神田へ来た。すずらん通りの古道具屋の《入口を入ったところの、軒の裏側みたいな薄暗いところに、ほこりまみれの小さな油絵が1枚掛っていた》。それが長谷川潾二郎の「薔薇」(一九三八)だった。額縁が欲しいとごまかして二千円で買って帰って、絵をきれいにすると、すっかり見とれてしまった。しかしそれが誰の絵なのかは分からなかった。

それからある時間が経ってある画家が洲之内の画廊へ絵を買って欲しいと持ち込んできた。そこに「薔薇」と同じ「Rinjiro」のサインを見つけて驚き感動した。それが長谷川潾二郎との馴れ初めで、ぜひ個展を開きたいと思ったのだが、実際に開催するまで六年以上かかったという。その間ずっと同じ作品に手を入れ続けてなかなか完成しなかったのだそうだ。ふしぎな画家とふしぎな画商のつながりである。
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by sumus_co | 2010-06-28 22:31 | 古書日録
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