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花田清輝の世界

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『別冊新評「花田清輝の世界」』第十巻第三号(新評社、一九七七年一〇月一〇日)。線引きあり、300円。目次に連なる名前が凄い。長谷川四郎、富士正晴、佐多稲子……『新日本文学』を中心とするメンツなのは間違いないが、小沢信男、川崎彰彦、今江祥智、由良君美、小野二郎、松本昌次、杉浦明平、中野孝次、そして久保覚(年譜も執筆)ら。

小沢さんは「東の花田、西の富士」という例によって軽妙なエッセイを寄せておられる。関西に来たついでに富士正晴の家を訪ねて気に入られ、富士が上京したときに、ロクに口もきいたことのない花田の家へ富士を案内するはめに陥る、という話。

花田はこのとき富士に向って《もっと積極的に有名になろうとしなければいけないとか、サーバーのように絵入りの本を書けばいいからやりなさい》とすすめて上機嫌だった。富士は《何たるバカなことをいうか》と内心思って、隣の小沢さんを振り返りながら「小沢君も売れん口やな」と言った。

《と、花田氏はジロリと私をみた。「いや、小沢君は売れる口さ」それきりつまらなさそうな顔でそっぽをむき、この話題はこのへんで痛み分けになったのである。東の花田、西の富士、この貧乏の双璧に、こんなふうにあしらわれるのが迂闊な四回戦ボーイの身の不運だ。やはり畏るべき先達には、あまりパーソナルに近づくもんでない。》

さすがは花田清輝。小沢さん、やっぱり売れる口でしょう。ゼロ年代八位だし。富士が《絵入りの本》を書いたかどうかよく知らないけれど、富士正晴らが訳した『紅楼夢』(カラー版世界文学全集、河出書房新社、一九六八年初版)には富士のカラー挿絵(彩色の派手な墨画)がたくさん入っていて、とても楽しい本になっている。この絵が気に入って今も座右に積んでいるくらいだ。この点も花田に軍配。

島尾敏雄にすすめられるなどして富士は上京する機会をうかがっていた時期があったと中尾務さんの連載で知っているので、ズバリ花田はその急所を衝いたようにも思える。結局、上京のふんぎりが着かずに西の御大におさまるわけだが。どちらがいいとは言えないものの、当然、富士が東京に定着していればまったく違ったストーリーが展開したであろう。

なるほどと思ったことひとつ。以前、川崎彰彦さんが「東の福田、西の涸沢(あるいは「東の武蔵野書房、西の編集工房ノア」だったかな?)」と東西の双璧の版元を称揚したと聞いた覚えがある。この小沢さんの「東の花田、西の富士」をもじっていたわけである。

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しかしはっきり言って読んで面白い記事はすべて「旧友」が書いたもの。なかでも小島信之「若き日の花田清輝ー第七高等学校・京都大学・上京までー」は抜群。

七高の新入生歓迎コンパ(一九二六年入学)における自己紹介で花田はこんなふうにしゃべったという。

《「わたしは、イタリアのフィレンツェの出身でして……」と言って皆を唖然とさせた。そして延々三十分にわたってイタリア・ルネサンスのことを物語った。
 鼻は高く、眼は大きく、かれの風貌にはどことなくエキゾチックなところがあり、かれがほんとうにイタリア人であると信じたものも初めのうちは何人かはいたようだ。》

掲載されている若き花田の肖像写真を見ると、どことなく、どころか、そのままハーフの風貌で、今ならすぐにアイドルになれそうな感じさえある。そしてイタリア・ルネサンスへの傾倒はすでにこのころからそうとうにディープなものだったことも分かる。

さらに花田の京都時代も興味深いので以下明日に続く。
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by sumus_co | 2010-06-01 21:37 | 古書日録
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