大阪で江戸時代に刊行された子供の絵本。肥田皓三先生が四月に住吉大社のセミナーでお話になったその刷物を頂戴した。そこになかなか面白い「桃太郎」の絵本がのっていた。
伏見桃山(桃!)に住むある夫婦には女子だけで男子がなかった。御香宮神社(名神高速の京都南出口そば)に参詣すると明神が現れて桃をひとつ呉れる。夫婦が持ち帰ると、
《見るうちに、この桃、頭手足できて、さもたくましき男子となりければ、夫婦大によろこび、桃を賜わる子なればとて桃太郎と名付け、いとおしみ云々》
桃太郎は一年で十年分成長する。ある年の節分にお参りにでかけている間に留守番をしていた姉娘が鬼にさらわれてしまい、桃太郎は姉を取り戻すために鬼が島へ渡ることになる。住吉大社に願掛けに行くと柊の精と鰯の精が助太刀を名乗り出てくる(節分のお話なので)……というような筋書きだそうだ。
室町頃から「桃太郎」にはいろいろなヴァリアントがあって、明治時代までは決まったストーリーはなかった。現在一般に流布しているのは巌谷小波『日本昔話』(一八九四年)が原型になっているという。
ただ、どうして桃太郎かというと、『字統』によれば『周礼』に《「桃は鬼の畏るるところなり」》と出ているそうだから、紀元前より中国では桃が鬼退治するのは当然だったことになる。